第149話 交渉

 きまり悪そうにプラティウムは、頭を掻きながら言葉を続ける。


「クプルムの邪魔が入る前の予定では、ザミエル殿に皆の前でジュウとやらのデモンストレーションをしてもらい、軍部の責任者らが立ち合いのもとで、その有効性を見極めるつもりであった。

 ところが、もう既にザミエル殿はジュウで、あの死神をあっさりと倒してしまわれている。

 今、騎士団も軍部もあの武器はなんだ? と大騒ぎよ。これ以上のデモンストレーションなど蛇足にしかならん」

「一言申し上げますが、あの死神を倒した時の銃は我が家の最高秘伝によるものです。デモンストレーションする予定だったものは、あれよりも威力は低いものだとお考え下さい。

 カプリュス殿にお教えしているものと同じです。それでも、余裕で鹿や熊などは普通に倒せる威力は十分にありますけどね。もちろん人間にも」

「なんと。死神を倒したジュウをお教えいただくことは適わないのだろうか?」

「鍛冶でも剣の道でも同じだと存じますが、いきなり素人に秘伝を伝えても使えるどころか理解すらできないでしょう。聡明なる陛下ならご理解いただけると思いますが、基礎が肝心なのです」

「あいわかった! では、ザミエル殿。改めてお願いしたい」


 プラティウムは、石動イスルギの眼を見て訴えてきた。

「何としても、我が国でジュウを造らせてくれ。幸い、カプリュスが造り方を聞いてはいるが、守秘契約に縛られているので広めることができない。これを解除したうえで、新たに契約を結びたいのだ」

「ふむ・・・・・・。陛下の存念は理解しました。ただし、実現するにはいくつか条件がございます」

「おおっ、なんでも言ってくれ。今回迷惑をかけたお詫びに、儂にできることならなんでもしよう」


 プラティウムの言葉に、石動は頭を下げて敬意を表した。


「ではお言葉に甘えて申し上げます。条件とは、次の五つです。

 一つ、銃の生産はカプリュス殿が責任者となって監督し、改めて国として守秘義務契約を結ぶことにより他の国に製造法を洩らさないこと。

 二つ、銃を販売する際には必ずノークトゥアム商会を窓口とし、それ以外の窓口を造らないこと。

 三つ、銃弾はノークトゥアム商会を通じてエルフの郷から仕入れること。

 四つ、銃の販売先はエルフの郷を優先し、その敵対先には販売しないこと 

    (例えばウィンドベルク王国)

 五つ、硝石など必要となる資材はエルフの郷に安価に提供すること

 以上、いずれかの条項が故意に破られたときは契約を破棄し、違約金などの賠償金を支払うなどの罰則条項を設定することとします。

 販売価格やロイヤリティなどの細かい部分は、同席しているノークトゥアム商会のオルキス支配人と決めて頂きたく存じます」


 石動の言葉にプラティウムは、顎髭を撫でながら考え込む。

 そんな王に代わり、カプリュスが石動に尋ねた。


「ザミエル殿、造る際にワシが監督するのは構わんが、よそに売っても良いのか? 外部に漏らさないという守秘義務契約を結ぶくらいだから、他の国には販売しないのかと思っていたぞ」

「フフフ、カプリュスさんも造ったら売りたいと思っていたでしょ? ただし、無制限に一般販売されても困るので、ノークトゥアム商会を通すことにより、販売先を選別してもらいます。

 カプリュスさんは他国の職人がクレアシス製の銃を購入したら、全く同じものを造ることができると思いますか?」

「う~ん、似たようなものは造れるだろうよ。だが全く同じものは難しいんじゃないか? 鋼材一つとっても高い鍛冶レベルが必要だし、ライフリングや焼入れなども同じだからな。ワシらはザミエル殿に教えてもらったからすぐに出来たが、全部自力でやるとしたら、数年はかかるかもしれん」

「数年あれば、こちらはもっと進化できますよね」

「進化できるのか!」

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