第148話 プラティウム王

 石動イスルギの感想としては"気難しそう"に見えるな、という第一印象だった。

 ただ、部屋に入ってきて、椅子に座った王は少し疲れて見える。

 

 ドワーフの王は石動に視線を向けると語りかけた。


「儂がプラティウム・レクス・クレアシス三世だ。貴殿がザミエル殿か?」

「はい、ザミエル・ツトム・ウェーバーと申します」


 石動が再び頭を下げつつ、神妙に自己紹介した。


「最初に申しておくが、ここでの会話は公式ではない。だから必要以上にかしこまる必要はない。直答も許す。あくまで私的な話をするためにこの場を設けたのだ」


 そう言うとプラティウムは石動の方に身を乗りだすような態勢で言葉を続ける。


「この度は貴殿に儂の愚息が迷惑をかけてしまい、まことに申し訳ない。許して欲しい」

 

 そう言うと、プラティウムは石動に頭を下げて見せた。


 石動は一国の王がいきなり謝って、頭を下げてきたことに驚いた。

 しかし、カプリュスは当然だと言わんばかりにソファーにふんぞり返っているし、オルキスを見てもさほど驚いた様子がないのを見て、「(この国では普通のことなのだろうか?)」と気持ちを静める。

 石動は、ここは慎重に対応したほうがよさそうだ、と心の中で呟く。


「もったいないお言葉を賜り、恐縮です。ただ陛下に迷惑をかけられた覚えはございませんので、謝罪は必要ありません。あくまでクプルム殿下とのお話です」

「そうだぞ! プラティよ、あの第二王子は何を考えてるんだ?! 親の躾がなっとらんな」


 カプリュスがプリプリ怒りながら文句を言う。


「プ、プラティ?」

「おう、こやつとワシは幼馴染なんだよ。親同士が親戚でもある。子供のころからよく一緒に遊んだもんだ」

「へぇ~、そうなんですか・・・・・・」


 思わずカプリュスに尋ねると、意外な人間関係が発覚してまた驚く石動。


「カプリュスよ、いくら何でも砕け過ぎだ。ふたりで酒を飲んでいる時とは違うのだぞ。公の場ではないとはいえ、儂の立場も考えてくれ」

「お前の立場など知らんわ! なにしろ、ワシは先程、お前の息子に殺されかけたのだからな! ザミエル殿がいなければ、今頃ワシは死神の角で腹を裂かれて、くたばっていただろうよ」


 苦虫を嚙み潰したような表情でカプリュスに零すプラティウムは、言い返されるとグゥの音も出ない様子で黙り込む。


クプルムあれも可哀想な奴でな。幼い頃から出来のいい第一王子にいつも比較され、裏では馬鹿にされておった。兄より劣るのは本人が一番気がついていて、傷ついてもいたと思う。

 剣や槍で敵わないならと勉学に励んでも、学園での成績は第一王子がいつも首席で、クプルムは平凡な成績だったわい。儂や王妃も愛情は注いだつもりじゃが、儂らもなにぶん忙しい身だからな。思うようには相手ができんかった。

 だからつい甘やかしてしまい、その結果本人を歪ませてしまったのだろう。全て儂の責任だ」


 俯き加減で、ポツリポツリと呟くように言葉を絞り出したプラティウムは、顔を上げて居住まいを正すと、石動達を見据えた。


「だが、今回ばかりは簡単に許すわけにはいかん!  既に処分は決めた。

第二王子としての王位継承権を剝奪し、どこぞの鍛冶場で下働きからやり直させて、根性を叩き直すことにする! というわけでカプリュス、お前のところで叩き直してやってくれ! 頼んだぞ」

「ふざけんな! それって丸投げってことじゃねーか! 第一、あんな尊大で使い難そうな奴は要らんわ!」

「まぁ、そう言わずに頼むよ。儂とお前の仲だろう? 他に信頼できるところが無いのだ。頼む!」

「・・・・・・ちょっと考えさせてくれ。あと、ザミエル殿に対してのけじめはどうするのだ?」

「うむ、それなのだが・・・・・・」

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