第134話 緩燃剤

 装薬量を増やして圧力を高めたら、鋼材Aの銃身の根元が高圧に耐えかねて膨らみ、ヒビが入った。


 鋼材Bの方での銃身は大丈夫だったが、真鍮製の薬莢が裂け雷管が高圧に耐えきれず外れて吹き飛んだため、高圧ガスに曝されたフォーリングブロックなどに歪みなどの影響が出た。

 もしセーフルームでの試射ではなく石動が構えて撃っていたら、破片と高温高圧のガスをまともに顔に浴びて、失明していたかもしれない。


 それを見た石動イスルギは頭を抱えてしまう。

 これは鋼材のせいではなく、明らかに推進薬である無煙火薬のせいだと思われるからだ。


 無煙火薬には燃焼速度の速い性質のものと遅い性質のものがある。

 皿の上で火を着けたら「シュッ」と燃えるか「シュー」と燃えるか程度の違いだが、その性質の違いで使用目的が変わってくるのだ。


 弾頭で蓋をされた金属製の薬莢の中に詰められた無煙火薬は、薬室に装填されることで更に狭く密閉された場所に押し込められる。

 雷管を発火させると、無煙火薬に火がつき燃焼が始まる。

 無煙火薬は燃焼すると気化してガスを発生させ、そのガスの圧力が高まると燃焼が更に促進される「加圧燃焼」という現象を引き起こす。

 その圧力に押し出されるようにしてガスの蓋をしていた形の弾頭が、ライフリングに食い込みながら銃身を通って銃口から飛び出すことになるのだ。

 

 弾頭が軽ければ圧力に蓋をする力も弱いため、スルッと銃身を抜けてしまうので、燃焼速度が速い火薬を使用しても充分な圧力が弾頭にかかり問題なく発砲可能だ。


 しかし弾頭が大きかったり重かったりすると、弾頭が銃口を抜ける圧力への抵抗は大きくなる。


 抵抗が大きい弾頭に燃焼速度の速い火薬を使えば、抵抗しつつ弾頭が銃身を通ろうと時間がかかっている間に、弾頭に蓋をされた形の圧力がどんどん高くなってしまうのだ。

 結果として、異常腔圧となり銃身や機関部が破裂することになる。



 そのような事態を避けるため、抵抗の強い弾頭には燃焼速度の遅い火薬を使用することが大切だ。

 燃焼速度が遅ければゆっくり圧力を上げてやることで、銃身内の弾頭に十分な圧力をかけてしっかり加速させることが可能となるのだ。


 前世界でも、装薬量が多く遠距離射撃が主となるライフルなどの実包には燃焼速度の遅い火薬を使用し、散弾銃や拳銃などの弾頭が軽く抵抗が少ない弾には燃焼速度の速い火薬を使用している。

 

 つまり、石動が造った無煙火薬は燃焼速度の速い火薬だったため、火薬量を増やすと弾頭の重い50-110弾では抵抗が大きく異常腔圧を起こしてしまい、鋼材が耐えられなかったということだ。


 このままではシャープスライフルを「エレファントガン」レベルにまで、弾速やエネルギーを上げるのはむつかしい。


「(う~ん、そうか・・・・・・やっぱ燃焼速度が早かったかぁ。緩燃剤を無煙火薬に配合して燃焼速度を遅くしないとダメということだな・・・・・・)」


 携帯の中の銃や火薬の資料を探して、前世界の火薬の配合データを確認してみる。

「(緩燃剤の名前は『ジニトロトルエン』か。トルエンを硫酸と硝酸の混合液で硝化したものとあるな。トルエンがあればいいのか・・・・・・。でもトルエンって、どこに行けばあるんだ?)」


 石動は、ライフルはもう完成間近だと思っていただけに、余計に失望感が強かった。

 深いため息をついてしまう。


「(とりあえずノーマルの50-110弾は撃てたから良しとしよう。仕方ない、ライフルはこの問題が片付くまでお預けだな。このままではボルトアクションライフルに取り掛かっても同じ結果になりそうだし・・・・・・。念のため、カプリュスにももう少し鋼材の改良を頼んでみよう。どっちにしろ今日はこのくらいにして、明日はトレンチガンを造るとするか・・・・・・はぁ~)」

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