第133話 50-110WCF弾
フックで刻む方が手間と時間がかかるが、銃身に曲がりなどの応力が生じにくく、ハンマ鍛造よりも精度が高いからだ。
「せっかくの鋼材なので、最高の状態で仕上げたいのです。なんとかなりませんか? 何とかなるようなら、旋盤の権利譲渡料は半分にしてもいいですよ」
「ヨシッ、ワシに任せとけ! 旋盤を改良すれば何とかできるかもしれん。ちょっと時間をくれ」
そう言って鍛冶場に戻っていったカプリュスは、なんと2日後には旋盤を応用して円柱の中心をくり抜くガンドリルを造りあげてきた。
「もうできたんですか!」
「ふふん、ワシを誰だと思っている? ドワーフいちのカプリュス様だぞ」
カプリュスが持ってきたガンドリルは、問題なくオイルを飛び散らせながら鋼材をくり抜いた。
石動はライフリングマシンを使えるようになり、ライフリングを刻む作業が格段に楽になった、と喜ぶ。
こうして作業を始めて1週間ほどで、銃身と機関部を仮組みしたものが出来上がった。
カプリュスとラビスが鍛冶場で実際に石動が学べるよう、ふたりが目の前で焼入れの手順を実践してくれ、銃身などの強度を増してあるものだ。
カプリュスが造った黒色火薬用のシャープスライフルのものがひとつ。
石動が造った、合金の配合によりクロムモリブデン鋼にニッケルを加えた鋼材Aと、ニッケルにバナジウムも加えた鋼材Bで造った無煙火薬用シャープスライフルのものがそれぞれ一つづつ。
このあとは石動が用意した弾薬を込めて撃ち、実際に銃身や機関部が圧力に耐えるかどうかの実験をおこなう必要がある。
カプリュスが造った黒色火薬用のシャープスライフルの試射は、50-90紙薬莢弾を使用して問題なく完了した。
念のため、セーフルーム内で30発ほど発砲実験をおこなったが、薬室や銃身にも異常はなく成功だと言える。
フロントサイトとリアサイトは精密なものを付けると、かえって射手によって調整が必要なので、一応どうしたいかをカプリュスに聞いてみた。
その結果、簡易なもので良いとカプリュスに言われたので、簡単なラダーサイトを銃身の上に付けておいた。
「あとは、この見本のように木製の銃床などをあつらえれば完成ですね」
「うんうん、ザミエル殿感謝する! この作業はワシにとっても得るものが大きかった。またひとつ、鍛冶師としての階段を登った気がするぞ!」
カプリュスは石動の手を両手で握り、感謝の気持ちを伝えてくる。
「こちらこそ、ありがとうございます。まだ私の試作や研究は終わっていないので、またいろいろとお願いするかもしれませんが・・・・・・」
「おおっ、遠慮なく言ってくれ! いくらでも手を貸してやるぞ。ガハハハッ」
上機嫌なカプリュスに、差し当ってシャープスライフル用の火の魔石を10本と紙薬莢弾100発を渡しておく。
カプリュスはシャープスライフルを仕上げるため、意気揚々とラビスと一緒に木工職人を探しに作業室を出ていった。
作業室に一人残った石動は、鋼材Aと鋼材Bで造った、無煙火薬用シャープスライフルの試射を行なうことにする。
50-110WCFの弾頭は、以前黒色火薬紙薬莢弾の50-130弾に使用していた330グレインの弾頭が成績良かったので、流用する。
無煙火薬の量は銃弾の名前の通り、110グレイン(7.12グラム)から始めてみた。
バンッ!
セーフルーム内で発砲しても、黒色火薬のように、もうもうと煙が出ることは無い。
続けて10発づつ、鋼材Aと鋼材Bのシャープスライフルで試射を続ける。
試射後、それぞれの銃身や機関部を分解してチェックしてみたが、どこにも歪みや破裂、ヒビなどは見つからなかった。
成功だ。
石動は思う。
「(よし、ではどこまで初速をあげるのに耐えられるか、試してみるか。銃身長は既に36インチまで伸ばしているので、これ以上伸ばせないし、あとは装薬量を増やしていこう)」
ところが、石動の試みは早々に躓くことになる。
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