第132話 ダマスカス銃身

 石動イスルギが使い方を教えるために、実際に旋盤を使ってパーツを造って見せるデモンストレーションをすると、カプリュスはあっという間に理解した。

 それだけではなく、見よう見まねで使ってみせ、いくつも部品を削り出してしまう。



 それを見た石動は舌を巻く。出来上がった部品の精度も、ほとんど石動の造ったものと変わらない。


「流石ですね、初めてでこれだけできる人は初めて見ました」

「う~ん、この機械は素晴らしいな。ザミエル殿、良かったら少しの間、ワシに預けんか? いくつか手を加えれば、もっと使いやすくなるぞ・・・・・・」


 カプリュスは旋盤を弄りながら、ここをこうすれば、いやあれを変えれば効率がいい、などとブツブツ呟いていた。

 その挙句、自作でも改良した旋盤を造って使用したいと言い出す。


「ザミエル殿、どうだ? その、相談なんだが・・・・・・このセンバン、ワシに権利を売らんか? この国のドワーフなら欲しがらないヤツはいないし、滅茶苦茶売れるぞ! 

 なによりこれが皆に普及すれば、この国の金属加工の水準が今よりも上がるのは間違いない。そのためにもこのワシが造って売るべきだとは思わんかっ!!」


 急遽、石動とカプリュスで話し合いが行われた結果、改良した旋盤の権利譲渡なども含めて、後日商業ギルドで契約することになった。

 カプリュスが、この旋盤は皆が欲しがると断言し、絶対売れるというので、カプリュスが製造販売することで合意する。

 石動はインセンティブとして、売上の2割を貰うことが決まった。


 そんな調子で銃の製作もとんとん拍子で進み、機関部の目途は立ったので、あとは銃身の加工だ。


 銃身を製造するのに丸い鋼材をくり抜く方法をとりたい石動に対し、心棒に鋼材を巻き付けて空洞のある円柱を造れば早いと言うカプリュス。


「(いやいや、黒色火薬時代の火縄銃や前装填銃ならそれでも良いんだろうけど・・・・・・待てよ。ドワーフに渡す銃としては無煙火薬に対応できない強度の銃身だった方が都合がイイか・・・・・・)」


 心棒に熱した帯状の鋼板を張り付けて巻きつけて筒状にして、外側からハンマーで叩いて造る方法を「巻き銃身」といい、初期の鉄砲製作で採られた手法だ。

 この際に強度を増すため違う素材の鉄を巻くことで美しい渦巻き状の文様が生じたものを「ダマスカス銃身」という。日本の火縄銃などもこのような造り方をしていた。


 それを思い出した石動は、思いついてカプリュスに提供する銃身はライフリングもハンマ鍛造ハンマーフォージング方式にしてはどうかと提案してみた。


 これは固定された心棒にライフリングを刻むミゾがあり、そこへ熱した鋼材を被せてハンマーで叩きながら銃身を移動させることで、ライフリング加工する方法だ。

 前世界でも大量生産される銃身に使用された方法で、石動にはハードルが高いが、ハンマー加工に慣れたドワーフ達なら再現できるかもしれない。

 前世界のダマスカス銃身でこの方法が採られたなんて話は聞いたことが無いが、カプリュス達のようなとんでもない技術を持ったドワーフならやれそうな気がしたのだ。


 そして石動が思った通り、翌日にはカプリュスはハンマ鍛造で美しい八角形の断面を持つ銃身を造りあげてきて、ドヤ顔を見せた。


「どうだ。これなら文句ないだろう。ザミエル殿の言った通り中に線条も刻んであるぞ」


 美しいダマスカス模様が浮かび上がった八角形の銃身の中には、キレイなライフリングが刻まれていた。


「素晴らしいです。流石はドワーフの技術ですね。私には真似ができない匠の技です」


 石動は褒め称えたうえで、ライフリングに少しバリが出ているので取ったほうが良いとアドバイスする。

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