第125話 無煙火薬作製
合金だけではなく焼入れの方法も含めて知りたい。
そうすれば、これからどんな銃を造るにせよ、必要な知識と経験を得ることができると考えている。
石動は集中して魔法陣の上で作業を続けていたが、4時間ほど続けると眩暈を感じるようになってきたので、中断せざるをえなくなった。
最近はここまで連続して作業することがあまりなかったので、今のレベルではこれが限界のようだ。
「(眩暈がするのはエルフの郷で火の魔石を雷管代わりに切り出す作業を続けたとき以来だな・・・・・・。あの時は2~3時間で眩暈がして、千個切り出すのに3日かかったっけ・・・・・・。少しは進歩してるのかな)」
石動は眩暈が治まるのを椅子に座って待ちながら、昔を思い出していた。
昔といっても、まだ、ほんの数カ月前のことだと気がついて苦笑いする。
本日の作業はこれまでと、切り上げることに決めた。
石動は粉末化した金属粉を作業室の棚にしまい、片づけをした後、カプリュスに声をかけてから宿に引き揚げることにする。
翌日、作業室に出勤した石動は、とりあえず在庫にある鉱石から必要な金属粉を抽出などの作業を終えて準備できた。
石動は、カプリュスに声をかけると、金属粉を渡すことにする。
「ヨシッ! 任せとけ! お望み通りの鋼を持ってきてやるからな!」
ガハハハッと、豪快に笑いながら各種の金属粉を台車に載せて、弟子に鍛冶場まで運ばせようとしているカプリュス。すごく張り切っている。
「試作品の鋼が出来たら、この部屋にお持ちしたら良いですか?」
台車を持ってきたラビスが石動に尋ねてくる。
「そうですね。出来たらそうお願いします」
石動は頷き、金属粉を台車に載せて鍛冶場へ運んでいくラビスとカプリュスを見送った。
作業室に残った石動は、次の作業の準備を始めた。
カプリュスがクロムモリブデン鋼を造りあげるまでの間に、できれば無煙火薬と雷管を造っておきたい。
せっかく合金が出来たとしても、それが無煙火薬の弾丸を発射する圧力に耐えられるものでないと意味がない。
それには出来上がった鋼を実際に切削して薬室とライフリング無しでもいいから銃身を造り、発射実験を行う必要がある。
そのため、石動は実験を行うのに必要な無煙火薬と雷管を造り、テスト用の金属薬莢弾をいくつか完成させておきたいと考えている。
まず石動が造ろうとしている無煙火薬は、一番シンプルなニトロセルロース主体のシングルベース火薬だ。
前世界でも一般的に、拳銃や小火器の弾薬に使用されていたものになる。
ニトロセルロースは単純に言えば、木綿や綿などのセルロースを硝酸と硫酸の混液で処理して造る無煙火薬だ。
これを造るために苦労して硝酸を取ってきたと言っても過言ではない。
硝酸を取りに行った挙句、ディアトリマに食われそうになったりして、苦労した結果ようやくここまで漕ぎ着けたと思うと、石動としても感慨深いものがある。
まだ、無煙火薬ができてもいないのにジ~ンとしてきたので、頭を振って気分を切り替えた。
問題はシングルベース火薬の作製に必要な、安定剤や緩燃材の素材がこの世界に無いことだ。
正確に言うと、まだ見つけられていない。
前世界ではニトロセルロースの他に、安定剤としてジフェニルアミンなどの安定剤を添加して、火薬が不安定化しないようにするのだが、こちらではジフェニルアミンを合成する手段がない。
というか、今のスキルレベルでは、どの素材をどう錬金すればできるかもわからない。
したがって石動は、ごく初期のシングルベース火薬である「B火薬」と呼ばれたものを造ってみるつもりだ。
これはニトロセルロースに安定剤としてエチルアルコールとエーテルを混ぜてゲル状にしたもので、これならなんとか素材はそろう。
それでもB火薬はエチルアルコールなどが揮発すると、途端に不安定化するのが弱点だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます