第124話 合金づくり

 そしてやはり金属加工の道具はドワーフだけあって、エルフの郷より進んでいた。


 彫金の技術も発達しているので、たがねや金属加工用のやすりなどは各種そろっていて使いやすそうだ。

 残念ながら、旋盤などの機械は存在していなかった。


 加えて石動イスルギは、できれば銃身を加工するライフリングマシンも進化させたい、と考えている。

 もしガンドリルを製作できれば一気にライフリング切削が可能となるし、命中精度も上がるかもしれない。

 ドワーフの技術力如何で、石動では無理だった他の工法も試せそうで楽しみだ。


「(そのへんはカプリュスとの相談如何だな・・・・・・)」


「どうだ! これなら文句あるまい!」

「ええ、ありがとうございます。早速、今日からでも使わせていただきましょう」


 カプリュスが、フンスッという効果音が聞こえた気になるほど鼻息荒くドヤ顔をしてきたので、石動は笑顔でお礼を述べておく。

 

 工房長室に戻った石動は、カプリュスに契約書を渡した。

 じっくり熟読したカプリュスは石動に質問する。

「確認だが、この契約書にある通り合金が完成したら、銃の造り方を教えてもらえるんだな?」

「そうです。一緒に造ることにしましょう」


 カプリュスは頷くと、契約書の石動のサインの横に署名する。

 一部づつ契約書を交換した2人は、いい笑顔で握手を交わした。


 こうして、いよいよ石動の、ドワーフの工房での生活が始まったのだ。




 契約を終えた石動は、早速カプリュスから提供された作業部屋に移動して、作業机の上に何種類かの鉱石と魔法陣を用意する。


 まず取り掛かるのは、カプリュスとの共同作業である合金づくりの準備だ。


 合金を造るために混ぜる金属を錬金術スキルを使って「抽出」「錬成」して、カプリュスに渡さなければならない。

 ちょっと考えていた石動は、まずカプリュスから提供された蛇紋岩を手に取った。


 蛇紋岩はニッケルやクロムを含有した鉱石だ。このあたりの山からは豊富に採取されることから、カプリュス達も、ニッケルを加えると鋼が硬くなるのを既に知っていて、今までにも何度も造っているという。

 石動としても、鋼にニッケルを加えると抗張力と硬度が増すので、銃身の素材として押さえておきたい金属だ。

 

 魔法陣を広げると蛇紋岩を置き、ニッケルとクロムを順番に「抽出」する。

 その後「精錬」を経て、「加工」の魔法陣で粉末化して保存しておく。

 何度も新たな蛇紋岩を魔法陣の上に置き換えて作業を続けていると、ニッケルは結構溜まってきたが、クロムの量が眼に見えて少ない。

 ここで産出される蛇紋岩にクロムの含有量が少ないために、あまり抽出できないようだ。

 そこで、石動は麓の街で購入してきたクロム鉄鉱もとりだすと、あわせて「抽出」していくことにした。


 クロムが必要量できれば、次は褐鉛鉱からバナジウムを取り出す作業が待っている。

 バナジウムを加えると、くり返し応力に耐性がつく。

 クロムやモリブデンを加えると、高温、摩耗耐性および硬度が増す。

 モリブデンは輝水鉛鉱きすいえんこうと硝酸を反応させた酸化物から、錬金術で「抽出」できそうだ。硝酸、バンザイ!と石動は心の中で叫ぶ。


 石動には、ライフルのバレルとはクロムモリブデン鋼をベースに加工した金属から出来ているという知識はある。

 しかし、クロムモリブデン鋼をつくるのに、どれだけのクロムやモリブデンを鋼に混ぜたらできるのかを知らない。

 さらにはニッケルなどをどのくらい、どう加えたら、強靭な銃身になるのか見当も付かない。


 また出来上がった金属はそのままでは使えない。


 ねじれや歪みなどの応力を取り除くために、複雑な焼入れ工程を何度も行なうことで金属分子が平衡状態に戻り、正しく配列される。

 そうすることで銃身内の歪みなどの応力が無くなるのだ。

 そこまで完了して、やっと銃身の穿孔や切削といった作業に入ることができる。

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