第123話 作業部屋
「それで結局のところ、お主はこれからドワーフの工房で修行というか、モノづくりを始めるわけだな。どれくらいかかるつもりなのだ?」
「う~ん、分からないけど、一か月くらいはみてるかな。いろいろと試してみたい事や教わりたいことがあるし・・・・・・」
「私は一か月もドワーフの工房で過ごすつもりはないから、近いうちにサントアリオスに戻ってリーリウムの所でゆっくりしてるわ。ドワーフの工房では私の護衛は必要ないみたいだしね」
「吾輩もそろそろ潮時であるかな。もうしばらくはこの宿にも世話になるが、近いうちにまた旅に出ることになるだろう。ザミエル殿のおかげで懐も温かくなったことだしな」
この夜の食事はめずらしくしんみりとして静かな夜となり、酒が進んだ。
今日明日にすぐに別れるわけではないから、と早めにお開きにして、休むことにする。
翌日、ノークトゥアム商会を訪れた
法務責任者と相談しながら、石動はカプリュスと交わす契約書の作成に取り掛かった。
小一時間ほどかかって、満足のいく契約書を作りあげた石動は、法務責任者に報酬を払ってから大事にマジックバッグにしまい込む。
その後、以前にも訪れた錬金術の素材の店で、クロム鉱石と褐鉛鉱などを買い漁る。濃硫酸や珪藻土、水銀なども忘れない。カプリュスによってクロムバナジウム鋼が出来たとしても、無煙火薬や雷管が完成していなかったら意味がない。
石動はまず無煙火薬の生成から始めるつもりだが、硝酸水銀を使った
他にも素材の店を回って、必要なものを大量に購入した石動は、準備万端で宿に戻る。
いよいよ明日は、カプリュスとの契約の日だ。
◆
「よく来たな。待っていたぞ!」
「こちらこそ。楽しみにしていました」
豪奢な工房長室に入ると、待ちかねたようにカプリュスがデスクから立ち上がり、歩み寄ってきた。そしてガハハハッと豪快に笑いながら、カプリュスが石動の肩を親しげにバンバン叩く。
一撃一撃がズシッとくる重い打撃に、思わず咳込みそうになりながら、石動は笑みを返して握手する。
「契約の前になんだが、例の部屋の用意ができてるんだ。ちょっと見てみるか?」
カプリュスが悪戯っぽく笑いながら、石動の顔を見上げるように見た。
「いいですね。ぜひ拝見したい」
「よし、こっちだ」
カプリュスは握手した手をそのままに、石動の手を引っ張るようにして誘導する。
石動はいい歳したおっさんと手を繋いで歩くのは少し気恥ずかしかったが、先日試射した部屋の先にある鉄製の頑丈そうなドアを開けたら、そんな感情は吹き飛んでしまった。
広さは前世界のバスケットコートくらいだろうか。部屋の真ん中に大きな作業台が置かれ、壁には試薬や素材を入れる棚やキャビネットが並んでいる。部屋の奥には、石動がリクエストしていた爆発物の実験に耐えるセーフルームも造られていた。ドワーフらしく頑丈な土壁で囲まれているので、中で少々爆発が起きてもビクともしそうにない。
その横には鍛冶ができるよう炉と金床が設えられている。
「(このへんにエルフの郷で使った足踏み式旋盤を置いて・・・・・・作業台が広いから万力やライフリングマシンも余裕で置けそうだ・・・・・・錬金術を使用するにもちょうどいい・・・・・・ガラスの容器も欲しいな)」
カプリュスにガラスのことも聞いてみたら、専門の職人がいるとのことだった。
以前、エルフの郷で錬金術の師匠がガラスのビーカーやフラスコを使っていると思ったら、透明な世界樹の樹液を固めた容器だと聞いてビックリしたことがあった。
直接火にかけても酸を入れても大丈夫なんて、世界樹の樹液スゲー!と感心したのはいい思い出である。
蝙蝠の洞窟で、硝酸を採取してきた入れ物も、もちろん世界樹の樹液で出来た密閉容器だ。
では世界樹の樹液を固めて磨けはレンズ代わりになるかも、と試してみたこともあった。がしかし、倍率の低い虫メガネ程度には再現できても、望遠レンズとしては透明度が足りず、歪みも発生するしで諦めてしまったのだ。
もしかしたら石動が持つスキルのレベルが足りないだけかもしれないが・・・・・・。
今度こそは職人を紹介してもらい、ちゃんとしたガラス製のビーカーなどを造ってもらうつもりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます