第122話 合意
「わかりました。そこまでおっしゃって頂けるなら、私も覚悟を決めましょう。
そのかわり、我が家の秘伝をお伝えするのですから、他に漏らすことが無きよう、きちんと守秘契約書をつくること。
そして守秘契約を守るということを神前で再び誓っていただくのが条件です」
「わかった!」
「それから私が錬金術を使って素材を抽出したりする場所を提供していただけますか? 私は新たな鋼が出来たら、いろいろと試作品を作るつもりです。したがって錬金術を使ったり、鋼材を使って試作品を造っても問題ないスペースが欲しいのです。できれば、工房長に銃の作り方をお教えしながら、作業できる距離にあるような場所だと好ましいのですが・・・・・・」
「大丈夫だ! 用意できる!」
「確認ですが、あくまでお教えする銃は
「ダンガン?」
石動はマジックバックからまた50-90紙薬莢弾を取り出して、カプリュスに示す。
「先程も説明した通り、銃は弾丸が無いと、その役目を果たせません。いわば、銃は弓で、弾丸は矢です。弓だけあっても仕方ありませんよね。そして、弾丸は鍛冶というより錬金術が必要です。どうしますか?」
「うう~む・・・・・・」
「なんなら、私が提供しましょうか? もちろん、私の試作品作りなどの作業が優先で、その合間に造ることができる範囲で、ということになりますが」
「もし、ダンガンの作り方も教えて欲しいと言ったら?」
「もちろん、別契約になりますし、相応の対価を頂くことになります。しかし弾丸こそが我が家の秘中の秘なので、決してお安くは無いですよ」
カプリュスはしばらく悩んでいたが、思い切ったように顔を上げて、石動を見て言った。
「よしっ! 決めた! 当面の間、ダンガンはザミエル殿に任せる。将来的に教えてもらう必要が出来たら、その時はその時だ。まずジュウを造れるようになることが肝心だしな!」
「わかりました。ではよろしくお願いします」
石動とカプリュスはお互いに右手を差しだし、ガシッと握りあう。
そして2日後に石動が契約書を用意して再びカプリュスを訪問することで合意し、石動とロサはカプリュスのもとを辞した。
それまでにカプリュスは石動に提供する場所を用意しておく約束だ。
帰りもラビスの案内で下まで降り、衛兵の居る検問所まで送ってくれた。
2日後に再訪する約束をしてラビスとも別れ、石動とロサは麓の街へとつながる道を帰っていく。
宿に着き、部屋に戻った二人は、ぐったりしてソファーにもたれかかる。
「はぁ~、なんか疲れたわね」
「まあね。でも交渉がなんとかまとまりそうで良かったよ」
ちょうどそこへ、エドワルドが帰ってきた。
「おおっ、もう帰っていたか。何やら疲れているようだが、上手くいかなかったのかな?」
「おかえり~。いや、なんか濃い一日で疲れただけさ。おかげさまで交渉はうまくいったよ」
「ほう、良かったら聞かせて貰おう」
エドワルドにドワーフの工房での体験を石動とロサで話して聞かせる。
エドワルドはホウホウ、と相槌を打ちながらにこやかに聞いていたが、カプリュスが代償に銃の製造法を知りたがり、教えることを条件に契約することになったと石動が言うと、急に顔色をわずかに変え黙り込んでしまった。
何やら腕を組んで考え込んでいるエドワルドを、不審に思いながら石動も尋ねてみる。
「エドワルドの方はどうだったんだ? 素材は高く売れたのか?」
「・・・・・・うん? おおっ、なかなかのものであったぞ」
聞けば、ディアトリマ巨鳥の素材や透明になる豹の素材は珍しく、非常に高値で売れたらしい。明るく話しているはずのエドワルドから、妙にいつもと違う印象を受けて、石動は内心で首を傾げる。
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