第116話 案内

 高炉を過ぎるとまたトンネルのような通路があり、そこを抜けると天井の高い巨大な地下都市が目の前に広がっていた。

 整然と区画整理された中に、家や工場のような建物が立ち並び、くまなく道路が張り巡らされている。

 そして最も印象的なのは太くキラキラ光る金属の柱が、何本も天井を支える柱のように地面から伸びていることだった。


「ここは有名工房で働く者達や、工房を構える者達が住んでいる居住区ですね。鉱山で働く者達もここに住んでいます」

「高炉のあった場所とは全く別にしてあるのですね」

「さすがに高炉で事故があった場合、近くに居住区があると危険ですからね。隔壁があると安心できます。なにより、あの熱気の中では生活できませんから。でも高炉の熱は配管を通じて、各家に暖房として利用できるようにしてあるんですよ」

「へぇ! 進んでるなぁ」


 石動イスルギはラビスの説明に驚いた。ドワーフは排熱利用もしているらしい。


「有名工房は別の場所になるんですか?」

「ええ、これからご案内しますが、工房はこの山の上の方にあればあるほど、技術力がありランクが高いと認められた工房になります。因みに今から行くカリュプス師匠の工房は上から二番目です」

「へぇ~、ちなみに一番上はどなたの工房なんです?」

「この国の王族の方ですね」

「おおっ、それはスゴイな」


 石動は感心したように頷く。

 説明しているラビスの口調もやや誇らしげに感じられた。


 地下都市の上の階層へは、石畳で舗装された緩やかな通路で上がっていくようになっていた。

 商品の搬出などを考えたら階段では不便だという処置かな、と石動は思った。


 2階に上がったらそこは工房街だった。

 通路が真っ直ぐ反対側まで伸びていて、その両側にいくつもの工房が商店のように並んでいる。

 なかには商品である剣や防具を店の入り口に陳列している工房もあった。


 天井まである金属の柱は1階と同じだった。ひょっとして各階を貫通しているのだろうか? と石動は心の中で独り言ちる。


 それぞれの工房は中に入るとまず商談スペースがあり、そこの壁に見本が並んでいて商談できる椅子やテーブルが置いてあった。

 商談スペースの奥にドアがあって、そこから鍛冶場に入る造りになっているようだ。


 通路を歩いていると、商談をするドワーフの大声に混じって金属を叩く槌音が響き、なかなかに賑やかだ。

 通路は荷馬車が擦れ違える程広いし、歩いている人も多い。


 3階、4階と上がっていくにつれ、工房の数が減るかわりに規模が大きくなっているのがわかる。

 工房の構えも立派で高級感が上がっているのが見てわかるほどだ。


 5階、6階とラビスについて上がっていくが、石動はふと疑問に思ってラビスに尋ねてみた。


「こんなに上の階の工房で造った剣とかを、どうやって下まで降ろしているんです? 通路を使うのは大変そうだな、と思ったのですが」

「上にある工房はそれぞれ、荷物を降ろす専用の坑道を持っています。それを使って降ろしていますね。鉱山で深いところまで人を降ろすのに使う、滑車で上げたり下げたりする設備を利用しているのですよ」

「えっ、それって人も乗れるんですか?」

「もちろん乗れます。まあ、縦に空いたトンネルの中を箱が上がったり下がったりする、と思っていただければいいですかね。たまにロープが切れて落下する事故があるのが玉に瑕です」

「えっ、大丈夫なんですか?!」

「まぁ、鉱山で働いても落盤やら事故やらで死人は出ますからね。一緒ですよ。ハハハ」


 それってエレベーターだよね!!と石動は心の中で叫んだ。

 死人が出るなんて笑い事じゃねーじゃん! 殺人エレベーターかよ?

 ドワーフどんだけだよ!と。

 

 8階まで上ってくると、結構な距離を歩いてきたように思う。これなら危険でも最初からそのエレベーター的なヤツに乗った方が良かったのではないか、と石動が思い始めた頃にラビスが言った。


「お待たせしました。この8階は全てカプリュス工房です。親方の居るメイン工房がひとつと、弟子が作業するサブ工房が五つあります。まず、親方の所へ参りましょう」

「はい、お願いします」

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