第115話 高炉
クレアシス王国の心臓部であるドワーフたちの工房があるのは、岩肌に虫食い穴が開いたようなミルガルズ山脈の岩山のなかだ。
麓の街から岩山の中にあるドワーフの工房街に入るには、岩山のふもとにある入り口の検問所を通らねばならない。
検問所にはクレアシス王国の屈強なドワーフの兵士が多数常駐していて、出入りできる許可証を持った人間しか通さないようになっている。
それきり、兵士は何も言わず、石動たちは検問所前で放置された。
しばらくはじっと待っていたが、10分経っても放置されたままだったので、石動が「あの・・・・・・」と兵士に話しかけようとしてもジロッと睨まれるだけなので黙るしかない。
あきらめて待っていると、トンネルの向こうからひとりのドワーフが走ってくるのが見えた。
ドワーフは兵士に話しかけると、書類を受け取り、石動達の方へ歩いてくる。
石動の前に歩み寄ると、にこやかに笑いかけながら尋ねてきた。
「すみません、ザミエル殿でしょうか? 私はカリュプス工房で働くラビスという者です」
「ああ、これはご丁寧に。ザミエルといいます。こちらはロサ」
「よろしくお願いします。お待たせして申し訳ありませんでした。私がご案内します」
ラビスはドワーフらしく、剛毛な髪と髭に覆われた顔をクシャッとして笑い、非常に愛嬌があって好感が持てる人物だった。
身長はロサより低いが体格はガッチリとして、身幅が厚く筋肉質なのが粗末な作業着の上からでも分かる。
ラビスの先導で検問所を抜けると、馬車が数台並んで通れるほどの幅を持つ広いトンネルに入る。トンネル内にも一定の間隔で発光するライトのような魔道具が、天井に埋め込まれていた。
「(電気もないのにどんな原理で光っているんだろう?)」
石動はドワーフの技術力に驚き、期待が高まるのを感じる。
50メートルも歩かないうちにトンネルは終わり、岩山の中のドームに出た。
「うわぁ~!」
「スゴイな、これは」
ロサが歓声を上げたのも無理はないと、石動は唸る。
入ってすぐに目に入るのは、高さは20~30メートルはある巨大な建造物だ。
「これはなんですか?」
「ああ、これは銑鉄を造るための高炉です」
「高炉!?」
石動の質問にラビスが答える。
高炉は前世界の製鉄所のような巨大な金属とパイプの塊ではなく、分厚い耐火煉瓦で出来た、台形のビルのような建物だった。何人ものドワーフ達が高炉にとりつき、それぞれの役割を果たすように働いている。
素人の石動には製鉄のメカニズムは分からないが、天辺から鉄鉱石やコークスを放り込み、巨大な送風機を動かして空気を送り込んでいるように見えた。
驚いたのは高炉内に空気を送り込む送風機が、熱せられた水蒸気で回る車輪に連結された大型のふいごであることだった。
「(原始的な蒸気機関が使われているのか・・・・・・?!)」
「この山は、今でも鉄鉱石を産出しています。いくつもの坑道が掘られていて、そこから運ばれた鉄鉱石とコークスを交互に投入し、下からふいごで熱風をおくるのです。そうするとコークスが反応してガスを発生させ、そのガスが鉄鉱石を溶かしながら酸素を取り除き、銑鉄ができます」
ラビスの説明に石動が驚いていると、釜が開けられて高炉から溶けた銑鉄が流れだした。それを受けてドワーフ達が洋ナシ型の転炉に銑鉄を移している。
「(ああ、なんとなくこの場面は映画か何かで見たことあるな・・・・・・)」
石動が、前世界でみた映像の記憶をたどっていると、ラピスが解説してくれる。
「あれは転炉ですね。銑鉄から不純物を取り除くもので、不純物が無い
「へぇ~」
石動は興味深く、製鉄の光景を眺めていたが、ロサが石動の袖を引っ張る。
「ねぇ、めちゃくちゃ暑いんだけど」
「うん、そうだね。行こうか」
排熱用のパイプや煙突が岩山の外に伸びているようだが、さすがにコークスの燃える高温に溶けた銑鉄などが相まって、かなり広い場所なのに体感温度は高く、ほとんどサウナ状態だ。
汗をダラダラ流すロサが、同じく汗みずくになっていた石動に先に行くよう促した。
ラビスは慣れているのか、汗ひとつかいていない。
再びラビスの先導で、奥に向かう通路を通り、次のフロアを目指す。
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