第114話 分配
ノークトゥアム商会の馬車でクレアシス王国の麓の街に戻った
風呂に入ると、自分の身体から信じられないほど垢が出て驚く。
石動はレンジャー訓練でサバイバル実習をした時を思い出した。
まさか、あの時より汚れていたとは・・・・・・。
こんなのが三人も乗った馬車の中は、さぞかし臭いが酷かったのではないだろうか。
石動たちは鼻が慣れてしまっていて気がつかなかったが。
臭いが馬車に移っていないといいが、と石動は心配になる。
オルキスさんに謝っておかないと、と心の中にメモした。
さっぱりしたところでベッドの上にダイブすると、一瞬で眠ってしまったようだ。
そこからの記憶がない。
ふと気がついて目をさますと、すっかり日が暮れて夜になっていた。
石動が起きてリビングのソファーでボーっとしていると、部屋に宿屋の従業員が来て夕食を並べ始めた。
同様に眠り込んでいたロサやエドワルドを起こして、久しぶりにまともな食事を楽しむ。
まずは3人で無事帰ってきたことを祝い、葡萄酒をグラスに注ぎ、乾杯する。
ひとくち口に入れると、赤葡萄酒の芳醇な香りとまろやかな酸味が豊かな味わいを奏でてくれる。
石動は生きて帰れて良かった、との思いをあらためて感じる。
「あのデカい鳥の肉も美味かったが、さすがにこの宿屋のとり肉のソテーには負けておるな! なんといってもかかっているソースが絶品だぞ」
「確かに。あそこでは塩味付けただけだったもんね」
「そういえば、肉はまだたくさんマジックバッグの中に入ってるから、この宿で調理してもらってみるかな?」
エドワルドとロサの話に何気なく石動が提案すると、ふたりはピタッと動きを止め、くるっと石動の方を見た。
「えっ、まだ持ってたの?!」
「それは良い考えじゃな! うーむ、しかしギルドに卸せば、おそらく高値が付くに違いないが・・・・・・」
ロサとエドワルドが石動の提案に飛びつく。
皆で話し合った結果、消える豹の牙とかディアトリマのくちばしや爪などの一部はギルドに売却するが、肉は売らずに食べてしまうことにしよう、ということでまとまった。
あす、宿屋の支配人に相談してみようね、楽しみ!とロサが嬉しそうなので良しとする。
石動はワインを飲みながらそう思った。
翌朝、宿屋の支配人に相談すると快く調理を引き受けてくれたので、石動はディアトリマのもも肉と胸肉の塊の一部を渡す。
鳥自体がデカいので、渡された肉の大きさに目を見張る支配人の反応に微笑み、ふたりは宿屋を出た。向かう先は以前、ノークトゥアム商会から紹介状をもらっていたカリュプス工房だ。
石動は、約束の1週間が経っているので、とりあえず挨拶に寄ってみようと思ったのだ。もしまだダメなら、リストにある錬金術の工房に回ってみてもいい。
エドワルドは、分配された魔物の素材がどのくらいの値段が付くか知りたいと言って、ギルドへ行ったので別行動だ。
昨夜、皆で素材の分配の相談をした時、エドワルドは最初、消える豹は石動がひとりで倒したものだからと素材を受け取ろうとしなかった。
しかし石動が命を助けてもらったお礼がしたいと説得して、やっと爪や牙の一部を受け取ることになった。
さらに話し合いの結果、豹の毛皮や魔石は石動のものとなる。
ディアトリマの素材もくちばしや魔石は石動がとり、爪や羽毛をロサとエドワルドで分けている。
巨大な大腿骨などもマジックバッグの中にあるのだが、それはふたりとも要らないと断られた。
エドワルドが自分で狩った蝙蝠の魔物や、ジャングルで食材にした魔物の素材もあるらしく、まあまあ大きな荷物を抱えると、いそいそとギルドに出かけて行った。
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