第113話 帰路

 翌日の朝、皆で滝裏の巣にふたたび行ってみる。


 昨日、石動イスルギとエドワルドが調べた時と全く変化がないので、他のディアトリマが此処に住んでいる可能性は低いと思われた。


「あいつは1羽でここに住んでいたのだろうか?」

つがいとかいなかったのかな・・・・・・」

「吾輩としては、もう一度、あ奴と戦うのは勘弁してもらいたいが・・・・・・」

「気持ち悪かったもんね~」


 石動だけではなく、ロサもエドワルドもあの巨鳥の群れがいるなどといった、悪夢のような事態は起こりそうもないことにホッとしていた。あんなのが何羽もいるなら、このジャングルは危なくて立ち入りできないだろう。


 とりあえず、滝裏を回って河をこえ、残りのジャングルを調査してしまうことにする。


 ジャングルの様相は前半の行程とほとんど変わりはない。

 しかし、こちら側の大きな樹には3メートル程の高さの所に引っかき傷があったり、初日と同じような猿の死骸が転がっていたりしているのが大きな違いだった。


「ここら辺はあ奴の縄張りだったのであろうな」

「こんなに縄張りを誇示するということは、あいつに縄張り争いをするような相手がいるってこと?」

「またロサは、そんなフラグを立てるようなことを言って・・・・・・アハハ」


 石動は笑って見せたが、振り返ったロサとエドワルドは真顔だった。


「とりあえず、用心していこうか」

「そうね」

「うむ、用心しよう」


 幸いなことに残りの行程では、石動の危険探知に引っ掛かる相手もなく、無事に初日、岩山を降りてきたところまで到着した。


 少し休憩した後、さっさと岩山を登って、最初にジャングルを見下ろした位置まで戻ってきた。

 この地を一周した後では、初日に見た光景とは違って見える。

 今では【絶景】などという感想は出てこない。

 気を抜いたら死を招く、危険な地だ。

 

 しかし、ここまでくればもう安心だ。

 3人はホッとして息を抜く。

 あとは馬車の迎えがくる場所まで降りるだけだ。


「あ~、ようやく帰れるわ。早く街に戻りましょう」

「うむ、賛成じゃ。戻ったら吾輩は思いっきり酒を飲みたいわい!」

「そうだね。今度来るときはもっと強力な武器で武装してから来ような」

「「えっ! また来るの!?」」


 ロサとエドワルドは心底ビックリした、という顔で石動を見る。


 ドワーフの街に戻ったらどんな新しい銃をつくろうと、ニコニコしている石動の顔をみて、ロサはハァ~ッとため息をつく。

 石動はそんなロサの様子も気づかない。


 手に入れた硝酸や硝石、思いがけず手に入った魔獣のアイテムなどで何を造ろうかとやる気に満ちていた。

 ドワーフの工房へ行く日が待ち遠しいほどだ。

 

 やがて、遠くにこちらに向かってくる馬車が見えてきた。


 馬車に手を振るロサの後姿を見ながら、石動は静かに興奮する自分を抑えきれなかった。

 この遠征の成功により、黒色火薬から無煙火薬へ進化できる目途がようやくついたといえるだろう。

 金属薬莢と雷管も実用化できるだろう。

 そうなれば、ついにカートリッジ式の連発銃を実用化することができる。


 石動は振り返って、岩山の頂きを見て思った。


「(硝酸を元世界のように工場で製造できるようになるまでは、硝酸の池に何度も取りに来る必要があるだろうな)」


 また来よう、と石動は心の中で誓うと、到着した馬車のドアを開けて乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る