第112話 危機一髪

 石動イスルギはしゃがみ込むと同時に、腰のホルスターのフラップを開けると、大型デリンジャーを抜いた。

 そして再び石動に視線を戻した巨鳥の顎、クチバシの付け根付近に、石動はデリンジャーを押しつけるようにしてハンマーを起こす。


「口が臭いんだよ! くたばれ、このトリ野郎!!」


 ドバンッ!

 

 石動が引き金を引くと50-90金属薬莢弾が巨鳥の柔らかい下あごから脳幹を貫き、頭蓋骨を破壊して大穴を開け、頭の天辺から弾が抜けた。

 石動は動きの止まった巨鳥の前から、ようやく横に這いだすことができた。デリンジャーのハンマーを再び起こし、両手で構えたまま油断せず、すぐに次弾が発砲できる状態で巨鳥を睨む。

 エドワルドが石動に近づき、それから長剣の先で巨鳥を押すと、巨鳥はゆっくりと倒れ、ピクピクと痙攣し始める。

 巨鳥に歩み寄ったエドワルドは、長剣を振りかぶると気合を込め、狙いをつけて振り下ろした。


「フンッッ!」


 ゴロリ、と巨鳥の首が転がり、大量の血が流れだす。やっと倒すことができた、

 とホッとして、2人で顔を見合わせると、お互いに拳をコツンと合わせる。


「エドワルド、ありがとう。あんたの助けが無かったら、私は死んでいたな」

「なに、礼には及ばんよ。実際、倒したのはザミエル殿だしな」


 石動はデリンジャーのラッチを開け、撃ち終わった空薬莢を抜くと、新しい弾を込めてラッチを閉じる。そしてホルスターにしまうと、シャープスライフルを取りに行った。

 エドワルドはナイフを抜いて、巨鳥の解体にとりかかっていた。


 巨鳥の馬鹿力で岩壁に叩きつけられたシャープスライフルは、無惨にも外部に露出した大型ハンマーが折れ曲がり、銃床が割れてしまった。

 銃剣には異状なかったが、このままでは使えない。修理が必要だ。


 このジャングルでは修理できないので、已む無くマジックバックから以前、狙撃に使った長いシャープスライフルを取り出し、壊れたものと交換することにする。

 

「ほれ、ザミエル殿。あんたのものだ」

 

 エドワルドが野球のボールほどの大きさの石を放ってくる。

 巨鳥から取り出したばかりで、血がついているが、薄青色の水晶のようだ。

 石動がキャッチすると、頭の中に「魔石:風属性」という言葉が浮かんできた。あの巨体に似合わない素早い動きは、風の魔法を使ったものだったのか、と納得する石動。


「ありがとう、エドワルド。良かったのかい?」

「うむ、吾輩には不要なものだ。もっとも、ギルドに持っていけば、その大きさなら金貨10枚にはなるだろうがな。ワハハハッ」

「分かった。じゃあ遠慮なく貰っておくよ。助けてもらった恩は、必ず返すから」

「良かろう。貸しイチとしておこうか」


 ディアトリマの解体を終え、素材や肉を回収した2人は滝つぼに降り、近くで岩陰に隠れていたロサに合流するとまだうずくまって震えていた。

 もう大丈夫だよと石動が魔石を見せると、ロサは飛びつくように石動に抱き着いて涙を流す。


「うわ~ん、怖かったよォォォォォッッ! 死ぬかと思ったァァァッ」

「うん、私も死にかけたよ。でももう大丈夫だよ」


 石動はロサの頭を撫でながらもう大丈夫、と繰り返してなだめる。

 ようやく落ち着いたロサを連れ、日も暮れかかってきたので、滝つぼを見渡せる岩棚を見つけて焚火を起こした。さすがに誰も、滝の裏の巨鳥の巣で夜を過ごす気にはなれなかったのだ。

 ここなら、何かが近づいて来ても見つけやすい。


 ちなみに、晩飯は「ディアトリマ(のそっくりさん)の肉」だった。しっかり血抜きをしたのが良かったのか、ディアトリマのもも肉は塩を振っただけなのに、ゲームの設定とは違って臭みもなく非常に美味しかった。

 皆でガツガツ食べ、なんとなく殺されそうになった仇を討った気になれて、満足したのだった

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