第117話 カプリュス工房長
でも、おかげで岩山の中にあるドワーフ工房の様子が詳しくわかったのは収穫だ。
ラビスもそれを見せたかったから各階を回って見せたのだろう。
8階まで来るとさすがに低層のような賑やかさは無いが、明らかに展示してある商品も高級感があり、客もレベルが上がっているのは石動でも分かる。
メイン工房に入っても、部屋の中には高級そうな絨毯が敷かれ、さながらショールームのように剣や槍、鎧をはじめとした商品が品よく並べられていた。
いくつかある商談スペースでは何人かの客が買い付けに来ているようで、キチンとした身なりのドワーフと商人が小声でやりあっていた。
「(う~ん、なんかイメージが違うな・・・・・・)」
石動はエルフの郷での鍛冶場の親方を思い出し、なんとなく居心地の悪い気持ちになる。
あそこまでではなくても、鍛冶場なんだからもっと雑多なものとイメージしていたのだ。
こんなに小綺麗だとは思わなかったというのが正直なところだ。
「(まあ、親方と会ってからだな・・・・・・)」
ラビスの先導で店の奥に進み、重厚な木製のドアの前で停まると、ドアをノックする。
「工房長、お客様をお連れしました」
「・・・・・・」
ン? という顔をして、ラビスが再度ノックして呼びかけても、部屋の中から返事はなかった。
「失礼しまーす」
ラビスが勝手にドアを開けて中を覗き込むも、すぐにがっかりした様子でドアを閉める。
「すみません、こちらに親方はいませんでした。多分、鍛冶場の方だと思いますので」
すこしイラっとした感じで、ラビスがまた先導して歩き出す。
今度は金属製の分厚いドアの前で停まり、ラビスが慣れた感じでドアを開けた。
その途端、ゴォッという炎の燃え盛る音に金属を槌で叩く金属音、それに男たちの怒声に似た怒鳴り声や熱気が石動達に叩きつけられる。
ずんずんとラビスが中に入っていったので、石動とロサも恐る恐る続く。
すると中で腕組みしながらあちこちに指示を出している、銀色の長い柄の槌を持った一際存在感のある逞しいドワーフがいた。
ラビスが目指しているのもそのドワーフのようだ。
「もう! 親方! 部屋で待っていてくださいと言ったじゃないですか!」
「おう、ラビス! 戻ったか! 最初は部屋に居たんだがな、することなくて暇でよう」
ガハハハッと豪快に笑うドワーフがやはり親方のようだった。その鋭い眼がラビスの後ろにいた石動にとまる。
「あんたがオルキスの紹介できた人か?」
「はい、ザミエルといいます。よろしくお願いします」
そう言いながら近付いてきた逞しいドワーフは、髭もじゃの顔をほころばせながら、ごつごつした右手を差しだしてきた。
ただそれだけの動作なのに、石動はなにやらドワーフの身体から熱気かオーラか分からないものが噴き出していて、石動の顔に吹き付けられたような気がして驚く。
差しだされた右手を石動が握りかえすと、
ドワーフはニッと笑うと言い放つ。
「ワシがカプリュスだ」
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