第110話 巨鳥《ディアトリマ》襲来

「鳥・・・・・・? それにしては大きすぎるし、翼が小さい・・・・・・」


 現れたのはロサの身長の2倍はあろうか、と思われる巨体だった。


 身体の4分の1近くを占めるような大きさの頭には、鋭く湾曲した巨大な嘴があった。

 今も何かをゴリゴリと齧っていたが、バキッと噛み割ると中身を舌でこそぎ、残りをペッと吐き出す。

 石に当ってカラカラッと音をたてたのは、何かの動物の頭蓋骨がかみ砕かれた破片だ。


 ロサはぞっとして思わず後ずさる。

 

 胴体は緑色の羽に覆われているが、翼は巨体に似合わず小さく、飛べるようなものではない。

 その代わり発達しているのが太い足だ。

 逞しい太ももが身体の半分はあるようなアンバランスな体格だが、それを支える足指も太く長い。

 その指には鋭く尖った長い爪が生えている。


 ヒクイドリに似ている、とロサは思った。でもあれはこんなに巨大ではないし、クチバシもデカくない。

 それに・・・・・・あの足の爪。

 

「まるでサーベルベアの爪のようだわ・・・・・・」


 ロサはゆっくりと背後の弓をとり、矢を番える。

 その間も巨鳥は人間を初めて見るのか、首を傾げて興味深げにロサを見つめていた。


「ゲギャッ、ゲギャッ、グェェェ!」


 次の瞬間、突然、巨鳥は頭を前後に振りながら鳴き声を上げたかと思うと、ロサに向かって走り出す。

 巨大な身体の割に、俊敏な動きだ。

 ロサは目の前の激流が流れる河を見て、巨鳥はどうするのか、と一瞬判断に迷う。

 すると、巨鳥は河に到達すると軽々と跳躍し、河の中ほどにある岩を大きな鉤爪で掴むと、さらにジャンプした。


 思いもよらず、今にも河を越えてきそうな怪物を前にして、ロサは半ばパニックになりながら矢を巨鳥に放ち、全速力で後退しつつ叫ぶ。


「ザミエルーーーーーッ!!」


 ロサの放った矢は巨鳥の目を狙ったものだったが、空中でクイっと巨鳥が首を捻ると大きなクチバシに当り、矢は逸らされてしまう。

 そのまま大きくジャンプしてきた巨鳥は、河を渡り終え、ロサのいる河岸にやってきた。

 なにを考えているのかわからない、黄色く濁った白目のなかの小さな黒目がキョロキョロとロサを見つめ、左右に首を傾げるような動作をしている。


 ロサと巨鳥との間の距離は10メートルもない。ロサは全身から冷や汗が噴き出しているのを感じ、足に力が入らず恐怖でガクガクしそうになる。ロサは心の中で祈るように呟いた。


「(ツトム・・・・・・お願い助けて!)」


 

 石動イスルギはロサが自分を呼ぶ、叫び声を聞いた。


 滝の裏から滝つぼ前に戻ると、巨大な鳥が河を飛び越えてくるところだった。


「うわっ、あれが足跡の持主か!」


 石動はサッと膝撃ちの態勢になり、シャープスライフルを構えると、ロサへの援護で素早く巨鳥の胴体に向けて発砲した。


「吾輩は先に降りますぞ!」

 エドワルドは走ってロサのところへ向かう。


 石動が放った銃弾は運悪く巨鳥の折り畳んだ翼に当り、羽毛は飛び散ったがあまりダメージは与えられなかった。意外なほど鳥類の翼は折り畳んだ状態では堅く、堅い羽と骨がドーム状の盾のような働きをすることがある。

 空気銃猟でカラスの駆除をする際に、カラスの羽がある肩のあたりにペレットが当たると貫通せず、跳ね返されることがあるほどだ。


「グエッ、グェッ、グェーーーーーッ!」

 

 巨鳥は怒り狂い、石動の方を向くと叫び声をあげる。

 

「マジかよ! この距離で貫通できないのか!」

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