第109話 滝の裏側

 しばらく前から音が聞こえていたが、ようやく山脈からの河が盆地に流れ込んでいる場所に着くと、そこは轟音をあげて流れる滝になっていた。

 高さは5メートルほどだろうか。幅も10メートルはある。

 水量は多く、元世界のダムの放水を思わせる勢いで滝つぼに落ちていた。


 岩だらけの河原を歩き、滝つぼの近くまで来ると、水しぶきは凄いが涼しい。

 蒸し暑いジャングルの中を行軍してきた身としては、なによりのご褒美だ。

 石動イスルギはマイナスイオンをたっぷり浴びるつもりで深呼吸する。


「すこしここで休憩しようか」

「私は出来れば水浴びして汗を流したいわ」

「賛成じゃな。ではまず周辺の安全確認といこう」


 石動の提案にエドワルドもロサもうなづく。3人で手分けして周辺を捜索することにした。


「ザミエル殿、来てくれ!」


 岩壁を登り、滝の裏側を調べていたエドワルドが石動を呼ぶ。

 急いで石動も岩壁を登ると、滝が流れ落ちる裏側はちょっとした広場のようになっていた。

 間近で滝の流れる轟音が腹に響いて凄いが、水のカーテンの裏側にこんなスペースがあるとは表から見ただけではわからない。


 滝の裏の広場に入った途端、なにやら異臭を感じた。

 動物園で大型獣の檻に近づいた時に感じる獣の強烈な臭いに似ている、と石動は思った。


「これを見てくれ」


 エドワルドが指さしたのは、大量の様々な動物の骨が散らばった場所だ。

 まだ肉が付いたままの骨があり、完全に乾燥して骸骨になっているものもある。

 骨の散らばった場所の奥には、巨大な鳥の巣のように木の枝が敷き詰められたものもあった。

 鳥の巣のなかにも骨が散乱している。明らかにここは何者かの寝床であり、巣なのだろう。


「なんだこれは・・・・・・」

「こちらから出入りしているのではなかろうか」


 石動たちが滝の裏側に入ったのとは反対側は、道のように踏みしめられた跡がある。エドワルドが示したその足跡を見て、石動は絶句した。


「デカいな・・・・・・」


 前に3本指、後ろに1本指の足跡だった。おそらく端から端まで70センチはあるだろう。

 形はどう見ても鳥の足跡だが、デカすぎる。

 石動は朝に遭遇したヒクイドリを思い出した。ヒクイドリの足にも似ているが、大きさが桁違いだ。


「これ、下手すると体長2~3メートルはあるね」

「うむ。足跡の土への沈み具合からみても、体重も200キロは超える大物であろう」

「ヤバいね・・・・・・」

「吾輩が思うに、あの骨の残骸から判断して、例の猿の死骸はこやつの仕業ではないかな」

 

 石動は背中に冷たいものが流れるのを感じた。首筋がチリチリして警戒しろとスキルが囁いていた。

 ハッと気がつく。


「ロサはどこだっ!」

「うむ、いかんっ、危ないぞ」


 石動とエドワルドは急いで滝の裏側を抜けようと走り出す。



 石動はエドワルドに呼ばれて、滝の裏側を見に行ってしまった。

 ロサは滝つぼ近くの大きな岩に腰かけていたが、ふと思い立って滝つぼから流れる川へ向かう。


 初日にジャングルを横切った時に渡った河はだいぶ下流だったが、かなり濁っていた。

 ここの水はまだ透き通っていて、キレイだ。思わず、膝をついて右手で河の水を掬いあげてみる。

 水はかなり冷たい。向こう岸までは10メートル程だが、流れが速く、河に入るのは危険だ。


 河から顔を出している岩を伝えば、渡れないこともないかな、とロサがボンヤリ眺めていた時、向かい岸のジャングルの藪が揺れ、そこからヌッと巨大な生き物が現れた。

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