第104話 ジャングル

 驚いて肩のラタトスクを見る石動イスルギ


「(えっ! いつ使った? そもそも鑑定って『鑑定!』とか言うと目の前に文字とかで名前や解説が現れるもんじゃないの!?)」

『何の知識だよ。そんなもんが目の前にチラついたら邪魔でしょ? そんなことしなくても知りたいと思って対象をみれば、自然と頭の中に浮かんでくるのが鑑定のスキルだよ。この間もドワーフの素材の店で「クロム鉱石だ」とか「褐鉛鉱だ」とか叫んでたじゃない。鑑定のほかにどうやって名前が分かったというのさ』

「(あれは石の横にラベルが貼ってあったから・・・・・・)」

『ホントにそんな名前で貼ってあった? ドワーフたちの呼び名は違うと思うけど』


 そういわれてみれば、なにも違和感を感じていなかったが、貼られていたラベルの名前はどうだったかは覚えていない。鉱石を見たとたん、頭の中に「クロム鉱石だ」と浮かんできたのだ。続いてクロムバナジウム鋼の作り方まで浮かんでいた・・・・・・。


「(そうか、もう鑑定のスキルは使ってたんだ。もっと早く聞けばよかった・・・・・・)」

『前にレベルも上がってると話した時に、もうわかってると思っていたけどね。安心して鑑定したらいいよ』

「(わかった。ありがとう)」

 

 呆れたようなラタトスクの言葉に、素直にうなづく石動だった。



 馬車で行けるところまで来たら、あとは岩山を登るだけだった。


 ノークトゥアム商会の馬車にはお礼を言って帰って貰った。

 一週間後にまだ戻ってなかったら来てくれるという。ホントにお世話になります、と石動は頭を下げる。

 岩山を登り切ったら盆地を見渡せる絶景が待っていた。後は険しい崖を降りて、ジャングルを進むことになる。


 苦労して石動達は、ようやく険しい岩場の下まで降りる。そこはもう既に薄暗いほどに植生の密度が濃いジャングルだった。足の裏で踏む腐葉土が森と違って柔らかい。

 ほのかに花なのか果実なのか、甘い香りが濃密な植物の青臭い臭いの中に混じっている。

 

「さて、ここからは吾輩が先陣を切るとしよう。目指す洞窟はこのジャングルを横切った先にあるらしいしな」

「上から見た感じ10キロほどだったよね。2、3時間ってところかな」

「いや、河もあるから、もう少しかかるのではないかな」


 石動と話しながら、エドワルドが腰の大剣とは別に準備した、片手でふるう1メートル程のマチェットを抜く。三人とも麓の街で買いそろえた長袖長ズボンに帽子をかぶり、ブーツを履いている。

 準備していた虫よけの油をビンから出して顔や腕に塗った。


「どんな魔物や生き物がいるか分からん。毒虫にも気を付けるんじゃぞ」

「うええ、なんだか帰りたくなってきちゃった」


 マチェットをふるって進む道を切り開きながらエドワルドが注意すると、油断なく弓を持ったロサが顔を顰め、肩を落とす。


 エドワルドを先頭に、真ん中がロサ、殿しんがりが石動の陣形だ。


 石動もシャープスライフルに散弾の紙薬莢弾を詰めておく。見通しの悪いジャングルでは、50ー90弾よりも有利だろう。銃剣の鞘も払っておく。


 バサッ、バサッとマチェットで生い茂る草やツタを切り開いていくエドワルドの背中は、早くも大量の汗が染みて長袖シャツが黒ずんでいる。湿気が高いので蒸し暑く、歩いているだけの石動でも、汗が噴き出てきた。暑くて息苦しいので口を開けると、マチェットに驚いた小さな虫が飛び込んでくるし、鼻で呼吸すれば刈り取った植物の汁の匂いが鼻につく。

 

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