第105話 蝙蝠の群れ
エドワルドがマチェットでつつく先に、大型獣の死骸があった。
最初は人かと思ったが、大型の猿のようだ。喉は嚙み千切られて皮一枚で繋がっているような状態で、
「う~ん、どうも大型の肉食獣がこのジャングルにはいるようじゃな。猿を捕まえるほど素早い・・・・・・この爪痕からみてパンサーか? それとも・・・・・・」
「
「うむ、気を付けようぞ」
石動はエドワルドと頷き合う。出来るだけ樹のうえも警戒するようにしよう・・・・・・。
そんな調子で、警戒しながら進むとジャングルや河を抜けるのに時間がかかり、目的の洞窟前に着いたのは日もすっかり傾いた夕暮れ時になってしまった。
岩山に空いた、三角形の裂けめのような洞窟が見えてくる。
「こんなに時間がかかるとは思わなかった。もう遅いし、とりあえず野営の準備をしようか」
「うむ、それが良い。洞窟に夜、入るのは阿呆のすることじゃわい」
「もう、わたし、疲れた・・・・・・。お腹ペコペコだし」
石動の提案にエドワルドもロサも異議なし! とばかりに合意する。
虫や捕食動物を警戒して洞窟の横に見えた岩棚に登り、僅かなスペースで焚火を焚いたら、やっと人心地ついてきた。
襲われたときに身動きが取れないので、テントは張らずマントなどにくるまり、交代で見張りをしながら寝るのだ。
石動たちは疲れた身体にむち打ち、よろよろと食事の支度をする。
途中でロサが、矢で仕留めた大きな鳥を捌いて焼くことにした。塩で味付けしただけのワイルドな焼き鳥だったが、3人で食べても十分な量があった。
食べたら少し元気が出たので、石動が最初の見張りをかって出た。話し合いの結果、石動、ロサ、エドワルドの順で見張りをすることになる。
ふたりがさっさと寝る準備をする中で、焚火に木の枝をくべながら、石動は横にある洞窟を眺める。焚火に掛けたマグカップでお湯が沸いたので、紅茶の茶葉を放りこんで上澄みを飲んだ。
石動には、早く入りたい気持ちを押さえながら飲む紅茶が、とても美味しく感じられた。
バァァァァァァァァッ!!
明け方の薄明りの中、石動はいきなりの轟音で目が覚めた。
見ると空はまだ日が昇る前で、岩山の輪郭が薄っすら明るくなっている程度だ。
周りを見回すと、ロサも起きて身構えているし、見張りをしているエドワルドは洞窟の方を見据えてマチェットを持って警戒している。
「エドワルド、なにが起こってる?」
「蝙蝠じゃよ。いきなり洞窟からものすごい数の蝙蝠が飛び出してきよったわ」
言われて石動が洞窟に目をやると、薄暗い中、黒い煙のようなものが洞窟から勢いよく噴き出している。よく見ると煙のようなものはすべて蝙蝠たちだ。轟音の正体は、蝙蝠たちの羽音だったのだ。
洞窟から飛び出した蝙蝠はジャングルの上を渦を巻くように飛び回っていた。それぞれが蝙蝠らしく不規則な軌道を描いて飛んでいる。
それを見て、石動は子どものころ、夕方になると小さな蝙蝠が街灯などに群がる虫を食べようと、同様な動きをしていたのを思い出す。
「そうか、こいつらの捕食の時間という訳か。賑やかな朝飯もあったもんだ」
「なんと、明るくなる前に食事をしようとしているわけか。何事が起こったのかと思ったぞ」
石動の言葉にエドワルドが肩の力を抜いて、ホッとしたように言った。
洞窟を眺めていたいたロサが、全部出てしまったのか、もう出てくる蝙蝠が少なくなっているを見て、思いついたように石動に尋ねる。
「ねぇ、今、洞窟に入れば蝙蝠もいないんじゃないの?」
ハッと顔を見合わせる石動とエドワルド。それから、3人は洞窟に侵入すべく岩棚を降り始めた。
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