第99話 オルキス支配人
翌朝、部屋のドアにノックの音がした。
リビングの椅子に座っていた
「おはようございます。朝食をお持ちしました」
「ありがとう。よろしく頼む」
テーブル席に朝食を並べ終えた従業員が退室していく。
石動は、銀貨を1枚、従業員に握らせた。
その頃になって、やっとエドワルドが起きて、ベッドルームから出てきた。
石動とエドワルドが一つのベッドルームを使い、もう一つをロサが使って寝ることにしたのだ。
「ふむ、失礼。寝坊したかな」
「いや、なんとなく目が覚めちゃってね」
エドワルドの言葉に、石動が苦笑して答える。
べつにエドワルドのイビキが五月蠅いとかいう訳ではない。考え事をしていたため、石動が眠れなかっただけだ。
ロサが風呂場に併設されたパウダールームから出てきた。
入れ替わりにエドワルドが顔を洗いに行く。
石動はテーブル席について、ピッチャーからオレンジジュースのような飲み物をグラスに注いで、一口飲んだ。
3人そろったところで、朝食となる。
パンは天然酵母で作ったドイツパンのようだな、と石動は思った。
オムレツやベーコン、ソーセージにカットされたフルーツと豪華だ。
食べながら、今日の予定を確認する。
「では吾輩は、冒険者や傭兵たちのギルドに行って、情報を集めるとしよう」
「お願いします。私とロサはノークトゥアム商会に行って、いろいろ聞いてみるよ」
「了解、わかったわ」
エドワルドが紅茶を飲みながら頷くと、石動とロサも顔を見合わせて頷く。
朝食を済ませた3人は、早速、行動を開始することにした。
石動とロサはふたりで宿を出た。すでにエドワルドは一足先に出かけている。
街中の道はすでに混んでいたが、目指すノークトゥアム商会はすぐに見つかった。
麓の街の中では一等地と思われる、中心の広場の一角に三階建ての大きな建物があり、目立つ看板があったのですぐわかったのだ。
建物の横手には搬入口と思われる大きな扉があり、今は閉まっていた。おそらく荷馬車はあそこから出入りするのだろう。
石動たちは表の入り口から入ることにする。
「いらっしゃいませ。ご用向きをお伺いしてもよろしいでしょうか」
「ザミエルといいます。昨日、商隊で一緒だった責任者の方にお会いしたい」
「かしこまりました。こちらで少々お待ちください」
木のドアを開けると、すぐに黒服にネクタイを締めた執事のような恰好をしたダークエルフの男性が、笑顔で会釈してきた。
石動は、最初の顔合わせの時に責任者の名前を聞いたはずなのだが、思い出せなかった。
ロサに聞いても覚えておらず、聞けば何とかなるだろうと思い、尋ねてみたのだ。
執事の案内で、宝飾品などを展示している店内を横切り、応接室のような小部屋に通される。
商談に使われる部屋なのだろう、部屋を閉ざす扉はなく、大きくもないが、調度品も豪奢でソファもふかふかだった。
メイドが運んできた紅茶を飲んでいると、背の高い女性のダークエルフが大股で歩いてくるのが見えた。
ズカズカという表現がぴったりな勢いで応接室に入ってくると、石動に右手を差しだす。
「やあ! 君がザミエル君か! コムルパから聞いているよ。私がこのクレアシス王国支店の支配人を任じられているオルキスという。よろしく頼む!」
ニコニコしながら、恐る恐る差しだした石動の右手を両手で掴み、ブンブンと振り回す。
身長は180センチは超えているだろう。
ダークエルフらしく美人でありプロポーションもいいので、まるでパリコレのモデルのようだが、いちいち言動が豪快過ぎる。
服装もスラックスに襟の無いジャケットのような上着で、まるで宝塚の男役のようだ、と石動は思った。
宝塚と違うのは、ジャケットの下のシャツが胸元の開いたデザインであることだ。
ダークエルフの女性は、胸元の開いた服を着る決まりでもあるのだろうか、と目線に困る石動は疑問に思う。
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