第98話 悪魔の囁き

 そういえば、シャープスライフルにやたらと興味を示していたな、と石動イスルギはぼんやりと思いつく。


 今までの石動に、殊更に銃を秘密にするつもりはなかった。

 秘密にするくらいなら、盗賊討伐で目撃者がいるのに、あれほどバンバン撃つことはしなかっただろう。

 どうせ現状ではカスタムメイドしかできないんだから、世の中に多大な影響を及ぼすようなことにはならないと思っている。

 そう思ったから、エルフの郷でシャープスライフルの製造方法を親方に教えたし、アクィラにも撃ち方を教えた。転移してからお世話になった恩返しの意味ももちろんあったのだが。


 ただ今後、高性能な銃を量産できるような場合は気を付けないと、とはぼんやり思っている。


 ふと、気がついてラタトスクに念話で話し掛けてみた。


「(ラタちゃんよ。クレアシス王国のドワーフがシャープスライフルを造るのは簡単だろうか?)」

『ふむ、簡単とはいかんかもしれんが、熟練したドワーフならできるだろうな』

「(えっ、あんなにライフリングひとつで苦労したのに・・・・・・。ドワーフならできるっていうの?)」

『ツトムの持つ現物があれば、時間は多少かかるかもしれんが、再現するのは間違いないと思うよ。なにしろ、モノづくりに関しては本職だからね』

「(マジか・・・・・・。じゃあ、本気で量産したら、どのくらい造れるのだろう?)」

『そうだねー、造り方を完全に理解したドワーフなら、1日1~2挺は造れるんじゃないかな。この国全体になれば工房を持つドワーフは500人じゃきかないからね。雇われているドワーフも含めれば3,000人はいるんじゃない。本気で造り始めたら凄いことになるよ』

「(そんなに・・・・・・。仮に1人2挺造ったとして1日に7千挺、10日で7万丁ってか! ドワーフヤバすぎだろ!)」


 石動は認識を改めないといけない、と冷や汗をかく思いだった。


 あまりにもこの世界をナメすぎていたようだ。シャープスライフルがドワーフにコピーされれば、火縄銃すらないこの世界には劇薬すぎる。

 たとえ黒色火薬の紙巻薬莢弾仕様の単発のライフルだとしても、だ。

 戦い方の根本が変わり、銃を独占した国は覇権を得るだろう。そして侵略される国も対抗手段として銃を手にするのは間違いない。泥沼の戦乱の幕開けだ。


 まあ、現状では黒色火薬ですら流通していない。

 それ以前に生産されてもいないので、銃だけあっても、急激な変化は起こらないだろう。

 しかし、錬金術がある限り、分析され、生成されるのは時間の問題ではないだろうか。


 ここまで考えて、石動はふと疑問に思う。


 


 今でも弓や槍、剣で国同士戦争してるじゃないか?


 どのみち殺し合うなら、剣でも銃でも一緒のことでは?


 そうだよ、

 

 アサルトライフルという訳ではないし、銃弾の問題もあるから、単発銃ならそんなに問題にはならないんじゃ・・・・・・。


 ・・・・・・。


「いやいやいやいや!」

 頭を振って、石動は考えるのをやめた。

 少し怖くなり、背筋に汗が流れているのを感じる。

 

「ツトム、大丈夫? 顔色悪いけど?」

 ロサが心配そうに近づきながら、声をかけてきた。石動の肩にそっと手をおく。


「大丈夫、心配ないよ。ありがとう、ロサ」

 石動は笑顔をロサにむけ、無理矢理に微笑んで見せた。ロサは心配そうな顔のままだが、それ以上何も言わなかった。


 とりあえず、エドワルドの目的が銃であることは間違いないように思える。

 どう利用するかは、これから次第だな、と石動は心の中で独り言ちる。


 その様子を栗鼠の姿のラタトスクが、眼を光らせながらじっと見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る