第85話 リーリウム

「ロサ、この国って何が盛んなの?」

「一番は宝石や貴金属の加工と販売じゃないかな。ダークエルフは手先が器用だからね、ドワーフと違った繊細な仕事で人気だって聞いたよ」


 石動イスルギの問いに、なぜかロサが自慢気に胸を張る。


「宝石の原石は何処から来るんだろう。やっぱり山からかな?」

「そう、主にモンターニュから流れてくるって聞いたわ。商人はブエンテラ領主国で仕入れたものをここで売って、その資金で宝石を買って他の国に行く人も多いんだって」

「へぇー」

「そうそう、だからこの先の街道は商人の宝石を狙った盗賊がおるのだ。吾輩もクレアシス側からじゃが、依頼されて討伐団に参加したこともあるぞ!」


 ロサとの会話にエドワルドが横から参加してくる。


「吾輩が討伐したのは、盗賊というより軍隊だったな、あれは。総勢100人はおったし、軍隊みたいに組織されてたから、ちょっとした戦争だったぞ」

「へえ~、それでその盗賊団はどうなったの?」

「うむ、なんとか蹴散らして首領を捕らえたのは良かったが、参謀格の幹部が捕まらなくてな。そ奴が軍隊のように組織をまとめてたらしい。狡賢いオオカミのような奴で、逃げ足も速かったわ」


 ハハハッと笑い飛ばすエドワルドを呆れたように見て、石動は改めてこの世界の治安の悪さとこれからの旅の安全を考えてしまう。

 自分もついさっき殺し合いをしたばかりだしな、と石動は内心でため息をついた。


 話しているうちに、ロサの案内で大通りから路地を一本入ったところにある、瀟洒で立派な二階建ての家の前に着いた。

 ロサがドアをノックすると、待ちかねたように内側からドアが開き、ダークエルフの女性が出てくる。

「リーリウム!」

「ロサ!」

 ハグして再会を喜び合う二人を見て、石動までなぜだか笑顔になる。

 そして二人の外見が対照的なのに驚いた。


 ロサは森のエルフらしく全体的に細身でスラッとしたモデル体型で、美しい金髪を肩甲骨のあたりまで伸ばし、肌も抜けるように白い。

 対してリーリウムはダークエルフのイメージ通り、肉感的でグラマラスだ。

 自然にウェーブした栗色の髪と褐色の肌も相まって、石動はラテン系美人という印象を持つ。

 それに加えてリーリウムは巨乳で、胸元が開いた服を着ているので余計に視線が吸い寄せられる。

 ロサも胸が無いわけではないが標準的で、リーリウムに比べたら小振りと言わざるを得ない。


 ロサに紹介されてリーリウムが石動に笑いかけながら右手を差し出してきた。

「あなたがツ、んんっザミエルさんね。ロサから聞いてるわ、よろしく」

「ザミエルです。こちらこそよろしく」 


 気を付けなければ。目線を落とすな、と石動は心の中で自分に言い聞かせた。

 女性は男の視線には敏感だと聞いたことがある。

 視線や態度でロサにリーリウムとナニかを比べていることを悟られてはいけない・・・・・・。

 下手撃つと死ぬかもしれないぞ。


 石動はエドワルドとも握手を交わすリーリウムを見ながら、ロサの眼が石動の行動を横目で監視しているのを感じていた。笑顔なのに眼が笑っていない。

 ふと、ロサだけではなくエルフの郷に居るロサの兄のアクィラが、剣を振り回しながら追いかけてくるのを幻視した気がする。

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