第84話 サントアリオス

 森の中の街道を、石動イスルギとロサそしてエドワルドの三人で歩き出す。


 ダークエルフの国「サントアリオス」は街道を道なりに進むと森の中に突如として現れる国で、どちらかと言うと大きめの集落という方が近いかもしれない。


 人口は1,000人~2,000人とはっきりせず、街道沿いにあるのはダークエルフが交易の目的で設けた集落だからであり、その住人の多くは森の奥で暮らしていると言われている。


 「サントアリオス」からはミルガルズ山脈の麓にある山岳民族の国「モンターニュ」への道と、ミルガルズ山脈に向かって右に折れ、ドワーフの国である「クレアシス王国」へ向かう道が伸びている。

 石動達は「サントアリオス」でロサの友人に会って一泊し、その後「クレアシス王国」に向かう予定だった。

 

「くどいようですけど、エドワルドさんはそれでいいんですね?」

「全く問題ない! 所詮、行く当てのない旅である故な! 吾輩もまだサントアリオスには行ったことが無いから楽しみだわい。ハハハハハッ」


 エドワルドの狙いはなんなのだろう?


 石動は少し探りを入れるつもりでエドワルドに念押ししてみたが、笑顔で煙に巻かれた。

 こういう腹芸はエドワルドの方が石動より一枚上手らしい。


 腹芸の苦手な石動は、こうなるともうスパッと諦めて、成り行きに任せることにした。

 ラタトスクもいることだし、あまり酷いことにはならないだろうと考える。


 そう割り切ってしまうと、エドワルドは旅の伴に最高の人物だった。

 旅の経験が豊富だから各地の土地柄や特産物に始まり、冒険者たちと組んで魔獣と闘った話など、話題には事欠かない。

 話は尽きず、何度もエドワルドの巧みな話術で爆笑させられた石動は、何だか警戒するのが馬鹿らしくなってきてしまう。

 すっかりエドワルドに気を許してしまった石動達が三人で談笑しながら歩いていると、森の中のやや薄暗かった街道の幅が広くなり、それにつれて微妙に明るくなってきた。


 ロサが小走りに駆けて、嬉しげに先頭に立って歩き出すとサントアリオスが近いことを告げる。


 それから30分も歩いただろうか、本当に突然パァッという感じで森が開け、サントアリオスが見えてきた。

 

 街道はサントアリオスに向かう左への脇道と、まっすぐ進んで「モンターニュ」に向かう道、そして右に折れて「クレアシス王国」に向かう三叉路になっている。


 左に折れて三叉路の脇道をしばらく進むと、そこはもうサントアリオスの入り口だ。

 確かに他の国のように立派な城砦があるでもなく、訪れた人は小さめの街、という印象を受ける。

 魔獣避けに集落の周りは先を尖らせた3メートル程の丸太で囲われ、堀も巡らせてある。

 でも質素で、必要最小限といった感じだ。


 入口の門には衛兵も立ってはいるが、入国手続きも無く、入国税も必要ない。

 聞けば関税も安いらしく、商人がブエンテラ領主国から流れてくるメリットがあるように工夫しているのが感じられる。


 衛兵に会釈しながら門を通った石動達は、ブエンテラ領主国に入った時のように騒々しくなく、落ち着いた雰囲気なのに好感を持つ。

 石畳できれいに整備された道の両側には、木造で白塗りの土壁とオレンジ色の瓦で建てられた瀟洒な家や商店が立ち並び、前世界のヨーロッパの古い町並みのような風情が感じられた。

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