第86話 盗賊団
その日はそのまま、リーリウムの家に泊ることになり、夕方には仕事を終えて帰ってきたリーリウムの両親と共に賑やかな晩餐となった。
リーリウムの両親はサントアリオスでも有数の宝石研磨と加工の工場だけではなく、販売店まで持つ商会を経営しており、議員として国政にも参与しているらしい。
本宅は森の奥にあり、この家はあくまで出先の別宅という扱いのようだ。
その割には豪華で、家というよりちょっとした「
そんな話やエドワルドの馬鹿話で盛り上がり、楽しい夕食だった。
ロサはまだリーリウムたちと積もる話があるようなので、
身体をお湯で拭い、さっぱりしてベットに横になった石動は、今日一日の目まぐるしい展開に思いを巡らせた。
石動は、三人も人を殺しているのだから普通なら何かしら感じるものがあるはずだ、と思う。
自分で自分を分析しても、特に興奮状態であるとか、逆に心を閉じているとかは感じられない。
逆に平静すぎて自分が怖い位だ。
「ラタトスク、私は冷たい人間になってしまったんだろうか?」
『スキルのレベルが上がることで、状態異常に対して抵抗ができているのかもしれないね。どのスキルが影響したかは分からないけど、普通に考えれば「暗殺者」か「兵士」かな』
「そうか、暗殺者や兵士が人を殺すのは当たり前か・・・・・・」
じっと天井を見つめて、石動は眉を顰めていたが、ふっと表情を緩めて灯りを消した。
「まあ、考えても仕方ないし寝るわ。おやすみ、ラタちゃん」
『おやすみ、ツトム』
翌朝、目が覚めると、とうに日の出を過ぎていた。
ベッドから起き上がり、少し寝過ごしたようだ、と石動は独り言ちる。
思ったよりも身体は疲れていたということだろうか。
身支度をして食堂へ降りていくと、既にロサ達は朝食を済ませ、お茶を楽しんでいるところだった。
「おはようございます。遅くなりまして、すみません」
「おはようございます! いえ、すぐに朝食を用意させますから、どうぞ席についてくださいね」
寝坊した詫びを石動が言うと、リーリアムが笑顔で手招いた。
石動がロサの隣の席に座ると、この家の使用人の女性が朝食が乗った銀の盆を持ってくる。
ロールパンが入った小振りの籠と、野菜のサラダにスープ、そしてオムレツ風の卵料理に分厚いハムの燻製と、朝から豪華だった。
そのボリュームに軽く驚きながら、石動はイタダキマス、と言って食べ始める。
ロサとリーリアムは紅茶を飲みながら、話が弾んでいるようだ。
リーリアムの両親は既に出勤しているらしい。
あとは・・・・・・。
「ねえロサ、エドワルドはまだ寝てるのかな?」
「もうとっくに朝食済ませて、散歩に行ってくると言って出かけたわよ」
一瞬だけロサは石動の方を向き、疑問に答えたと思うと、すぐさまリーリウムとの会話に戻っていく。
女子の会話はまさにエンドレスだな・・・・・・と思いながら、石動が朝食の残りを平らげたところへ、エドワルドが戻ってきた。
「ザミエル、そこらの商人が噂していたが、クレアシス王国への街道で質の悪い盗賊が出てるらしいぞ」
エドワルドが石動の顔を見るなり、声をあげる。妙に楽しそうだ。
「誰に聞いたんだ、そんな話」
「散歩していたら商人が何人も集まって話しててな、吾輩も情報収集と思い、話に加わったのだ」
ハハハッと笑うエドワルドを見て、石動は心の中で「(コミュニケーション能力オバケ・・・・・・)」と呟く。
「もう何組か、商隊がやられてるらしい。盗賊にかけられる懸賞金もうなきのぼりだそうだ」
「やはり宝石狙いなのかな?」
「もちろんそれもあるが、根こそぎやられるらしいぞ。歯向かう者は皆殺しで、積み荷だけでなく女子供まで攫っていくんだそうだ。なかなかに残虐な奴のようだな!」
抵抗しなければ生きて帰った者もいるらしい。石動がエドワルドの話に相槌を打ちながら紅茶を飲んでいると、リーリウムの父親であるノークトゥアムが食堂に入ってきた。
「ちょうど良かった。ザミエル殿、エドワルド殿、すこし話があるのだが良いだろうか?」
ノークトゥアムが居住まいを正そうとする石動達を制しながら、声をかけてくる。
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