第82話 追憶‐アフガニスタン⑥

*77話から83話までは、石動の自衛隊特殊作戦群時代の過去が描かれています。

 石動の人格形成や性格に影響を与えた体験をしてしまう話ですが、物語の進行には大きな影響はありません。     

 現代戦の話ですから、銃オタ・ミリオタの呪文オンパレードになりますので、苦手な方は84話へ飛ばして頂いても大丈夫です。

 引き続き、物語をお楽しみください。


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 成宮曹長の首の出血部位は深く、一目で致命傷と分かる傷だった。

 石動イスルギは手で首から噴き出す血を止めようと押さえ、懸命に声をかけ励ます。

 成宮曹長は既に焦点が合わない眼で虚空を見つめ、微かに一言呟くと生命の火が消えてしまう。


 石動は様々な感情が渦巻き、胸の中を鋭い爪で掻き毟られるような気持ちだったが、ひとつ深呼吸して成宮曹長の遺体を抱えながら、ヘリの影まで走る。 


 成宮曹長の遺体を抱えてブラックホークの影に走り込むと、相馬一曹と伊藤二曹が待っていて、成宮曹長を抱きかかえるように受け取る。


 銃撃は激しさを増していて、集中砲火を浴びているこの場所に、いつまでも居る訳に行かないのは明らかだった。


 リチャード少尉が口を開く。


「状況は最悪だ。CIAラングレーのクソ野郎が、クソ情報をつかまされた挙句、この状態だ。敵はザカールウィではなく、タリバンの可能性が高い。包囲される前に一刻も早くここを抜け出す必要がある」


 成宮曹長の遺体をチラッと見てリチャード少尉は続ける。

「成宮曹長が死んでしまったのは残念だ。心からそう思う。いいヤツだった。しかし、遺体を担いでこのタリバンの包囲を抜け出すのは無理だ。そして日本人はこの場所にはいないことになってる。絶対に死体をタリバンの手に渡すわけにはいかないんだ。どデカいスキャンダルになる」


 リチャード少尉は2枚のドッグタグを見せる。

「ヘリもこのままにはしておけない。ヘリの操縦士もダメだった。そこで、このヘリを爆破し炎上させるときに成宮曹長の遺体も燃やす」

 

 異議を唱えようと顔を上げた石動達を手で制して、リチャード少尉は言い切った。

「これは決定だ。異議は認めない。お前らももし基地に帰るまでに死んだら燃やすか、爆破するから覚悟しとけ」


 リチャード少尉の眼は本気だった。横からブロディ上級曹長が笑顔で優しく付け加える。

「心配するな。俺たちが必ずお前たちを基地まで連れて帰ってやる。だが、ナルミヤはダメだ。お前たちも分かってるだろう? こうしている間にも逃げるチャンスは無くなっている。リチャードが喜んで言ってると思わないでくれ」


 ブラックホークの機体を叩く銃弾の雨は、ますます激しくなっていた。


 相馬一曹は頷くと、成宮曹長のドッグタグを外し、自動小銃やマガジン、拳銃などの装備を成宮曹長の遺体から剥がす。

 マガジンは同種の自動小銃を使う相馬一曹と伊藤二曹が分け、自動小銃や拳銃は力持ちの相馬一曹が自分の装備の上に括り付ける。


 その間にブロディ曹長がプラスチック爆弾と焼夷手りゅう弾をヘリに仕掛けた。

 石動達3人は、操縦士らと並べられた成宮曹長の遺体の遺体に手を合わせて冥福を祈り、一緒に帰れない事を心の中で詫びる。


「いいか、今からあの谷の左手の斜面まで撤退する。まず俺とブロディが出る。後でリーアムとエメリコの指示でお前らも移動して来い。リーアム、基地と連絡はとれたか?」

「30分で騎兵隊が爆撃に来るとさ」

「やけに準備が良いな? まあいい、聞いたな。30分何があっても生きろ」

 リチャード少尉が矢継ぎ早に指示を飛ばす。リーアム曹長が衛星電話で話した内容を伝えると、皆で立ち上がり動き出す。

「では行くぞ! 行動開始ムーブ !」


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