第79話 追憶-アフガニスタン③

*77話から83話までは、石動の自衛隊特殊作戦群時代の過去が描かれています。

 石動の人格形成や性格に影響を与えた体験をしてしまう話ですが、物語の進行には大きな影響はありません。     

 現代戦の話ですから、銃オタ・ミリオタの呪文オンパレードになりますので、苦手な方は84話へ飛ばして頂いても大丈夫です。

 引き続き、物語をお楽しみください。


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 岩山が多く開けた土地で戦うため、長距離で撃ち合うことが多いアフガニスタンでの戦闘では、アメリカ軍正式のM4小銃の5.56×45弾では威力不足を指摘されていた。

 そのため、エメリコ曹長はナイツ・アーマメント製のM16小銃を7.62×51弾にして狙撃銃に仕立て直したナイツSR-25を使用することで、チーム内のマークスマン的な役割を果たしている。

 そんなエメリコ曹長から実弾射撃のレクチャーを受けることができたのは、石動イスルギにとっては得難い経験だった。


 岩山から岩山まで超長距離の狙撃など、日本の演習場では全く考えられないシチュエーションで、マンツーマンでエメリコ曹長が石動に狙撃を叩きこんでくれた。


 実践的な風の読み方から、陽炎や気温・湿度が与える弾道への影響、1,000メートルを超える狙撃の場合は地球の自転の影響まで計算に入れて考えるなど、詰め込まれる内容に石動は頭がパンクしそうになりながら、エメリコ曹長の「授業」についていくのに必死だった。


 エメリコ曹長が「SEALSネイビーシールズの奴からせしめた」と、冗談かどうか判別しにくい笑顔で持ち出したのが、50口径のマクミランMk-15狙撃銃だった。

 それによって、刻々と風向きが変わる難しい谷越えの2000メートル先の標的にバンバン命中弾を浴びせるのを見て、石動は空いた口から塞がらず、同じ人間業とは思えなかった。

 石動も撃たせて貰ったが、10発に1発も当たればいいほうで、己の実力不足に悔しい思いをする。


 狙撃に使う銃は、石動の持つ特殊作戦群の使用小銃であるHK416自動小銃が5.56×45弾なので、デルタの武器庫にあったHK416を大型化して7.62×51弾が使用できるようにしたHK417自動小銃にリューポルドのスコープを付けたものを借りて使用している。


 ちなみに他のデルタ隊員たちは、サイレンサーを付けたMK12 Mod 1を使用していた。


 そんな濃密といえる訓練も、2週間近くが経過して終わりに近づいたある日、デルタチームに緊急指令が入る。

 

 CIAからアフガニスタンのある村に、アルカイーダの幹部アル・ムハンマド・ザカールウィが入った、との情報が入ったのだ。


 ザカールウィはアルカイーダの幹部の中でも過激派として知られ、私兵組織「聖戦ジハード軍団」を組織してイラクでの日本人人質殺害事件や数々の爆破事件に関与し、アメリカ合衆国から多額の懸賞金をかけられている大物だ。


 衛星写真やドローンでの撮影では、それらしい人物は認められるものの、確証を得るまでには至らず、デルタチームによる侵入と確認がフォートブラックの本部を通じて依頼されてきた。

 

「そんなもん、ドローングレイイーグル飛ばして、そいつにバイパーストライク誘導弾をぶち込めば済む話じゃねえか?」

 ブロディ上級曹長が面倒臭そうに顔の前で手を振りながら文句を言う。


「違うヤツのケツにぶち込むとマスコミや議会が五月蠅いからな。確認したいんだと」

 リチャード少尉が眉を顰めながら続ける。

「要するに政治だ。俺たちは駒に過ぎんよ」


 リーアム曹長がニヤリと笑って尋ねた。

俺たちには鋭い爪も牙もあるけどな。確認したら殺しちまってもかまわないんだろ?」


 リチャード少尉は微笑みながら肩をすくめた。

「そりゃ成り行きってもんだ。CIAラングレーは生け捕りにしたいんだろうけどな」

 笑い合うデルタチームを見て、石動達は4人に畏敬の念を抱く。

 

 たった4人でアルカイーダの勢力下にある村まで行って、帰って来るというのか。

 しかも出来たら暗殺までするという・・・・・・。

 激しい戦闘になるのは眼に見えているのでは?


 石動はデルタの本気を見てみたい!という強い衝動が腹の底から込み上げてきた。

 

 リチャード少尉が成宮曹長に向き直って済まなそうに口を開く。

「あー、済まない。我々はピクニックに行く事になった。そんな訳でちょっと早いが訓練は終了・・・・・・」

「私達も同行させて頂けないでしょうか!」

 

 リチャード少尉が話し終わらない間に、石動は大きな声を上げてしまった。


 横では成宮曹長が目を丸くして石動を見ており、伊藤二曹が慌てて石動の肩を掴む。

 真剣な石動の眼を見て、成宮曹長は微笑みながら微かに頷くと、伊藤二曹らを見た。

 相馬一曹は親指を立てて頷き、伊藤二曹も石動の肩から手を放して苦笑いを浮かべる。


「私からもお願いします」

 成宮曹長がリチャード少尉に頭を下げると、石動達3人も慌ててそれに倣う。


「うーん、流石にマズいんじゃないかな。難しいと思うけど、フォートブラックには一応、伺いを立ててみるよ」

 リチャード少尉は最初は断っていたが、なんとか渋りながらも譲歩してくれ、本部の許可を条件に同行を検討してくれることとなった。




 

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