第78話 追憶‐アフガニスタン②

*77話から83話までは、石動の自衛隊特殊作戦群時代の過去が描かれています。

 石動の人格形成や性格に影響を与えた体験をしてしまう話ですが、物語の進行には大きな影響はありません。     

 現代戦の話ですから、銃オタ・ミリオタの呪文オンパレードになりますので、苦手な方は84話へ飛ばして頂いても大丈夫です。

 引き続き、物語をお楽しみください。


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 基地のヘリポートに着陸したUH60ブラックホークヘリの、ローターが巻き起こす砂埃交じりの風を受けながら地面に降り立った石動イスルギ達は、米軍兵に指示された場所で整列し待つことになった。

 待つ程もなくハンヴィーが2台現れ、石動達の前で停まると、そこからラフな格好をした4人の男たちが降りてくる。


「ハロー、済まない。待たせたな。私はリチャードだ」

 にこやかに笑いかけてきた大柄で髭を蓄えた金髪ブロンドの白人男性がサングラスを外しながら話しかけてくる。

 慌てて敬礼していた石動達に対して握手を求め、右手を差し出してきた。軍服の階級章は陸軍少尉となっている。

 部隊章はナイフに正三角形の稲妻マーク「DELTA FORCE」だ。


 デルタフォースとは、第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊の通称であり、他に戦闘適応グループ、陸軍別動エレメント等の名称があり、主に対テロ作戦を遂行するアメリカ陸軍の対テロ特殊部隊である。

 統合特殊作戦コマンド(JSOC)の指揮下に置かれているが、その実態は秘密のベールに包まれている。


 石動達が先日までアメリカ軍基地で合同訓練を行なっていたグリーンベレーも特殊部隊だが、米軍広報などでも公認されているグリーンベレーと違い、デルタフォースはその存在を公的には米軍は認めていない。

 従ってその任務も極秘であることが多く、任務の中では民間人に偽装する必要もあるため、頭髪は他の部隊に比べて自由度が高いのが特徴だ。

 また、服装も任務の性質によっては必ずしも軍服を着るとは限らないようで、民間軍事会社の警備要員のように私服に近い服装に武装して任務に当たることも多い。


 そしてチームは通常、四人一組で行動する。近接戦闘等のほか、現地の語学に精通するなど頭脳面でも高い水準が要求され、演習時には他部隊の一般の兵士に容易に作戦内容を知られぬようにわざとドイツ語やフランス語を使って作戦会議を行うほど、隊員の語学水準は非常に高いと言われている。


 初めて見るデルタチームに緊張しながら自己紹介する石動達らと握手を交わしたリチャードは、笑みを浮かべながら続けた。

陸軍特殊作戦軍団フォートブラックからしばらく君達と行動を共にするように言われている。よろしく頼むよ」


 特殊部隊に属する者なら、デルタチームと合同訓練出来るなど願ってもないチャンスだ。

 石動達4人は喜びに顔を見合わせると、リチャードに揃って敬礼した。

「アイ・アイ・サー!」



 それからというもの、石動達はデルタチームから様々な訓練をし、教えてもらった。


 まずは基地の一角にある無人となった石や土造りの建物群を「恐怖の館2(ハウス・オブ・ホラー2)」と称して、石動達はデルタチーム相手に市街戦や近接戦闘の演習を毎日行う。


 石動達も今までの訓練経験から、市街戦はもちろん、屋内への侵入や狭い場所での近接戦闘等、充分身についているはずの技術がデルタチームには全く通用しなかった。

 何度も全滅させられ、甚振られ、簡単にあしらわれる。

 他にも実地で同行したパトロールの方法だけでも目から鱗が落ちる思いだったし、岩山の多いアフガニスタンでの山岳戦のやり方や待ち伏せの見破り方、逆に待ち伏せする方法などなど・・・・・・。

 

 爆発物の発見や処理、又は仕掛け方などは赤毛のスコットランド系白人のブロディ上級曹長が教えてくれる。デルタチームに所属する前にはEOD(爆発物処理班)にも所属していたらしく、イラク派遣時にはありとあらゆる爆発物を処理した、と笑っていた。

 

 アフリカ系アメリカ人とアイルランド人のハーフというリーアム陸軍曹長は、格闘技の達人だった。

 世界中を回った時に武術を習ったというリーアム曹長は、イスラエルのクラヴマガやインドネシアのカリ、果てはロシアのシステマまで習得したという猛者だ。日本の横田基地に居た時に合気道や古武道の柔術を教わって楽しかったと言い、合気道をやっていた石動と話が合った。


 でも石動が一番為になったのは、デルタチームの中で最も小柄で無口なヒスパニック系のエメリコ陸軍曹長だ。

 エメリコ曹長はデルタチームに入る前は海兵隊でスカウトスナイパーをしており、イラクで実績と経験を積んだベテランだった。本人は詳しくは語りたがらないが、噂では200近い射殺実績を積んでいるらしい。


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