第77話 追憶‐アフガニスタン①

*77話から83話までは、石動の自衛隊特殊作戦群時代の過去が描かれています。

 石動の人格形成や性格に影響を与えた体験をしてしまう話ですが、物語の進行には大きな影響はありません。     

 現代戦の話ですから、銃オタ・ミリオタの呪文オンパレードになりますので、苦手な方は84話へ飛ばして頂いても大丈夫です。

 引き続き、物語をお楽しみください。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 異世界転移より遡ること5年前・・・・・・

 201●年某月某日 アフガニスタン上空


 

 米軍のUH60ブラックホークの機内はエンジンの爆音やバタバタと響くローター音で喧しく、相変わらずロクマルの乗り心地は良くないな、と石動イスルギ二曹は思う。

 身体を捻って外を見ても茶色い岩山ばかりが眼下を流れ、面白くもなんともない。


 石動はつい先日までUSA本土のワシントン州のルイスマコード統合基地で行われていた、毎年定例のグリーンベレー第1特殊部隊グループと自衛隊特殊作戦群の合同訓練に参加していた。

 訓練最終日の夜、参加チーム代表の大山一佐による突然の命令で石動他4名が選別され、急遽米軍機でアフガニスタンのカブール空港まで飛び、現地での演習に参加することになったと聞かされたのだ。


 翌朝早くにはアメリカ空軍のC-17輸送機に、アフガニスタン向けの車両や物資と共に詰め込まれた石動達4人は、一路アフガニスタンのカブール空港へ飛んだ。

 カブール空港到着後も休む間もなくUH60ブラックホークに乗り換えて、アメリカ軍とアフガニスタン正規軍の合同基地へと向かうことになった。


「で、結局、ここで何をするのか聞いてますか?」

 石動は隣に座る成宮曹長にヘリの爆音に負けない音量で尋ねた。

「いや、一佐からは着いてからのお楽しみ、としか聞いてないな」

 成宮曹長は苦笑いしながら答えた。石動よりも年上でもうすぐ30歳になると聞くが、甘いマスクと鍛え抜かれた身体を持つイケメンで、婦人自衛官をはじめ女性陣の人気の的だ。


 本人は結婚していて美人の妻と五歳になる娘を持つ善きパパであり、至って妻一筋の堅物である。

 その身持ちの堅さや子煩悩ぶりに、他の男性隊員も曹長のモテモテぶりにムカつきながらも、つい許してしまうような愛嬌があった。


「ひょっとして実戦だったりして」

 ニコニコしながら会話に参加してきたのは相馬一曹だ。

 いつも笑顔を湛え温和そうな相馬一曹は、身長165センチと特殊作戦群の隊員としては小柄ながら人並外れた筋力と持久力を持ち、作戦時には誰よりも頼りになる存在だ。

 腕の太さなどは石動の倍近くあって、隊員たちの間での秘かな通称は"豆タンク"だ。

 愚か者が本人を前にその言葉を言うと、その太い腕から繰り出される神速のボディブローを喰らって悶絶する羽目になるだろう。


「ありえますよね。アフガニスタンではタリバンやアルカイーダへの掃討作戦が激化してるらしいし」

 細面の顔にゴーグルの様な眼鏡を掛けて、大学院生の様な知的な雰囲気を漂わせ、戦闘服や銃器の似合わない感じの細身の男が伊藤二曹だ。

 冷静沈着とは伊藤二曹のためにある言葉だと石動は思っていて、訓練中はもちろん作戦行動中にどんなトラブルがあっても冷静に処理してしまう。

 見かけによらず気質は戦闘民族で、果敢な行動をとることを厭わないところが石動と気の合うところだ。不思議と動物に懐かれる男でモフモフに弱く、猫に赤ちゃん言葉で話し掛けているところを石動に見られた時には、口止めに一週間食事を奢ってくれた。


「いずれにせよ、20代の生きの良いのが選ばれたんだ。いつもの訓練ではなさそうだが・・・・・・」

 成宮曹長がそう呟いた時、ローター音が変わり、米軍兵たちが動き出した。

 石動が外を見るとテントや車輛が並ぶ大きな基地が見えてきた。

 着陸が近そうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る