第74話 人質
大男は雄叫びを上げながらハルバートを振り回して、樹の上のロサを攻撃しているところだった。
金髪ロン毛が石動を足止めし、ロサを二人掛りで捕らえて人質にするつもりだったようだが、当てが外れてパニックになっているようだ。
大男は、やたらとハルバートを樹の枝を切り落としながら振り回している。
ロサも最初は上手く樹の影に隠れたりして凌いでいたが、運悪くハルバートの先が靴の踵を掠め、バランスを崩して樹から落ちてしまった。
石動が駆け寄るまでの僅かな間の出来事で、しまった!と思い石動が大男を撃とうとした。
その時、ハルバートを手放した大男は腰の短剣を右手で抜きながらロサに走り寄ると、左手で樹から落ちて地面に倒れたロサを抱え上げ、自分の前で盾にして石動に叫ぶ。
「来るなっ!」
ロサの喉元に短剣をあてた大男は、スキンヘッドの頭の先から汗をかき、眼は金髪ロン毛や長身男らを見てキョロキョロと落ち着かない。
「落ち着きなよ。もうあんた一人だぜ。まだやる気かい?」
石動は長身男に視線を送るもピクリとも動かない。首の矢キズから大量の血が流れているので、生きていてもそう長くはないはずだ。
止めを刺しておきたいところだが、先ずはこちらからと大男を見る。
ロサを盾にしているが、細身のロサでは大男の身体全部は隠しきれず、半分以上はみ出している。
何ならヘッドショットも可能だが、まともに脳漿を浴びさせるとロサに怒られそうだ。
では・・・・・・と石動は大男に話しかけながら、ロサに合図を送ることにした。
「あんたらが襲ってきたから、自分たちも反撃したまでだ。これ以上、戦うつもりが無いなら争う必要も無いだろう?」
石動はしゃべりながら右手で自分の左足を擦り、それからシャープスライフルを持ち上げた。それからロサをジッと見る。
ロサは石動を凝視し、しばらく意味を考えた後に微かに頷く。
「ロサを離してくれるなら、あんたは好きなとこに行けばいい。どうだ?」
大男は追い詰められた動物特有の脂汗を流し、嫌な匂いを体中から発していた。
「断る。信用できない。女は森を出るまで一緒に連れていく」
「そうか、それは残念だ」
石動はため息をついて見せ、次の瞬間、シャープスライフルを腰だめで大男の右膝を狙って発砲する。
バァンッッ!
50ー90紙巻薬莢弾は右膝を破壊しただけではなく、その巨大なエネルギーで膝から下を切断し吹き飛ばした。
「ギャアアアアアッ!」
大男は突然左足が吹き飛ばされてバランスを崩し、仰け反りながらロサから手を離すと倒れそうな身体を庇おうとして右足の方に手を伸ばす。
ロサはその隙を逃さず、右手で左腰の剣鉈を抜くと振り返りざまに、倒れ掛かったため目の前に下がってきていた大男の喉元を、その刃で切り裂いた。
「クパ・・・・・・」
気管や声帯まで切り裂かれた大男は倒れながら両手で噴き出す血を押さえようとしたが果たせず、口をパクパクしたと思ったら目玉がグリンと裏返り、絶命した。
「ふぅ、ツトム、ありがとう」
ロサが剣鉈についた血を大男の服で拭いながら、礼を言ってきた。
石動はシャープスライフルのレバーを操作してブリーチを解放し、薬室にポケットから出した紙巻薬莢弾を装填し薬室を閉じる。
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