第63話 同行者
一通りの挨拶が終わった頃、最後にアクィラが左足を軽く引き摺りながら
「ツトムには本当に世話になった。だから、世間知らずのお前が外に行くと聞いて、オレが付いて行ってやろうかとも思ったが、手足が不自由な俺では足手まといになりかねんし、今後神殿騎士団へのライフルの指導もあるから無理だと諦めた」
「足手まといだなんて、そんな事無いですよ! (でも、諦めてくれて良かった・・・・・・)」
石動は首を振り、出来るだけ心の内をアクィラに読まれないよう、神妙な顔を崩さない。
だが何故か、アクィラの石動の肩を掴む力が強くなってくる。
「そしたら、どうしても俺の代わりにお前と行くと言って聞かない奴がいる。ツトムもいい大人だから大丈夫だと言っても、この世界の事は知らないから必要だと聞かないんだ・・・・・・」
「そ、そうですか (え、さっき世間知らずがどうのって言ってたような・・・・・・ううっ、そろそろ肩が痛い)」
アクィラの肩を掴む力が益々強くなり、腕がブルブルと震えている。石動は何となく、以前にも似たようなことがあったと思い出した。
アクィラは気持ちの高ぶりを抑えきれず、石動の肩を掴んだまま顔を俯き、首を振っている。
そしてガバッと上げた顔を見れば、アクィラの眼から涙が流れていた。
「どうしても、どうしてもお前についていくと言って聞かないんだよ! ロサが!!」
その時、石動の背後に気配を感じて振り返ると、ロサが恥ずかしそうに少し身をくねらせて立っていた。
その姿は旅装で整えられている。
ホットパンツとへそ出し半袖シャツの様な露出高めの皮鎧にロングブーツ。
腰のベルトには様々なポーチと剣鉈に似たナイフを差し、その上から柔らかそうなフード付きのロングコートを着て、背中には横に矢筒がセットされたリュックとロングボウを背負っていた。
「ロサ! (ええっ! マジで!?)」
驚いて目を丸くする石動に、やや上目遣いでロサが遠慮がちに見つめる。
「ツトム・・・・・・相談も無しにごめんなさい。でもこのまま一人で行かせると後悔すると思ったから・・・・・・」
ハッと気が付いたようにロサは顔を赤くして、慌てて手を振った。
「あっ、いや、外を知らないツトムが一人だと心配だから! ってそういう意味だから!」
そういうロサの様子を見ていたアクィラは血の涙を流したかのように充血した目でツトムを睨む。
「可愛いロサがここまで言っているんだ。まさかと思うが断らないよな? いや、断ってもらった方がいいのか。くそー、混乱して頭が回らない!」
まだ石動の肩を掴んだままだったアクィラはピタッと動きを止めたかと思うと、バッと石動をハグし、ひそひそと耳元で囁いた。
「いずれにせよロサを泣かせたら殺す何かあったも殺すもし手を出したらちょん切るから覚えとけ・・・・・・」
「怖い! 怖い! 特に最後の何?!」
石動が離れようとしても離さず、耳元でブツブツと呪文のように同じ言葉を繰り返すアクィラ。
終いには見かねたロサが石動からアクィラを引き剝がし、ようやく助け出してくれた。
代わって神殿騎士団の団長と鍛冶場の親方、錬金術の師匠の3人がツトムに近づく。
団長が石動の手をとって、申し訳無さそうに頭を下げた。
「ツトム、いろいろと助けて貰った上に、新しい武器まで提供して貰うなんて、どう感謝して良いか分からない。
これからもこの郷を守っていく事だけに新しい武器は使わせて貰うつもりだ。安心してほしい」
親方も石動と団長の手に、自分の手を重ねる。
「まだツトムのようにはいかないが、いずれお前を超えた物を作って見せるよ。だから、必ず様子を見に帰って来るんだぞ」
師匠も手を重ねて石動を見た。
「わざわさ好き好んで山なんか行かなくても、問題を解決出来たんじゃ無いかねぇ。まあ、お前の代わりは私がチョイチョイとやっといておくから、無事素材を手に入れて、また新しいのを造るときには尋ねて来なさい」
石動は思わず目頭が熱くなるのを感じ、3人に頭を下げた。
「ありがとうございました。必ず帰って来ます」
しばらく頭を上げられなかった石動の肩や頭を親方や師匠が優しく撫でていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます