第62話 旅立ち
ーーー 1か月後、
ようやく準備が整ったので、旅に出るのだ。
石動の旅装風体も、この世界らしく見栄えのするものになっている。
まずはキングサラマンダーの素材を使った蒼い鱗の皮鎧にエルボーパットやニーパッド、頭まで保護するフード付きのマントだ。
キングサラマンダーの素材で造られたマントや鎧は、薄くしなやかなのに刃物を通さず、防火・衝撃にも強いという破格の性能を持っていた。
これは鍛冶場の親方が石動の
マジックバッグの中には錬金術師の師匠から貰った素材や魔石、魔法陣などが山ほど入っていた。
地味に病気に効く丸薬やキズ薬の塗り薬などが嬉しい。
武器は残弾少ないレミントンや狙撃用のシャープスライフルはマジックバッグに仕舞い、初代の紙薬莢用のシャープスライフルに銃剣を装着し、革スリングを付けて肩に掛けている。
薬室には弾は込めていない。必要ならマジックバッグから取り出せばいい。
左腰には師匠作の小剣を差し、右腰には今回旅のために新しく装備した大口径の上下二連の大型デリンジャーを、アメリカ軍が第二次世界大戦でコルトガバメントに使用していたタイプに似せた頑丈なホルスターに入れていた。
これはライフルなどが使い難い、狭い環境などでいざという時に使用できるよう思いついて造ってみたもので、実際に実銃でもアメリカ製のアメリカン・デリンジャーM4というモデルがある。
本来なら掌に隠れるサイズのデリンジャーを巨大化させ、45-70弾という巨大な弾を撃つという、ネタものとしか思えない銃なのだ。
それを参考に単純な構造のレミントン・デリンジャーを巨大化し頑丈にして、既にある金属薬莢の50-90弾を二発装填出来るようにしたものを造ってみた。
強度テストを繰り返し、なんとか連射可能と判断してから、石動は実際に射場で撃ってみた。
元々ライフル用の銃弾を無理矢理拳銃で撃つので、予想はしていたものの余りの反動の強さに、数発撃ったら手が痛くて嫌になってしまうほどだった。
それでもデリンジャーとは名ばかりで、全長や重さが自衛隊の時に使っていたシグ
P220よりデカい上下二連の怪物を腰に下げると、何となく安心な気持ちになったのは内緒だ。
こちらは常時携帯するし、いつでも使えないと意味が無いので湿気や水に強い金属薬莢弾を装填してある。
石動がエルフの郷を出ようと思いたったのは、昔、冒険者をしていたという神殿騎士から、大陸中央の山脈の中に蝙蝠の魔物が数多く住む洞窟があると聞いた時だった。
それを聞いた石動は、石化した世界で科学する主人公の漫画を思い出し、硝酸が採れるのでは?! と閃いたのだ。
硝酸があれば雷管の実用化にも目途が付くし、硫酸は師匠が既に入手しているのがあるので、セルロースの代わりになる繊維質のものを見つければ無煙火薬の作成も可能になるかも、と考えたら、石動はなんとしても手に入れると心に決めた。
無煙火薬はライフルのパワーアップと近代化に是非とも必要なものだ。
それに加えて、この世界に来てからエルフの郷近郊以外の場所に行ったことがないので、他の世界も見てみたい、人の居る場所にも行ってみたいという気持ちが抑え難く膨らんできた。
そんなことをラタトスクはもちろん、アクィラをはじめとした関りになった人たちと相談しながら準備していたら、すぐに一か月が経ってしまった。
皆の中には寂しがったり引き止めたりする者も居たが、別に今生の別れという訳ではなく、石動としては素材を集めたら一度戻ってこようかな、と考えていたのでそう話すと渋々引き下がってくれた。
そのため旅立とうとしている石動の周りには、アクィラを含めて神殿騎士団長ら騎士数名と、鍛冶場の仲間や親方に、錬金術師の師匠は白衣を着たままで、と大勢がにぎやかに見送りに来ている。
石動は、そんな大袈裟にしなくても、と思わないでもなかったが、皆の好意は嬉しかったので面映ゆい気持ちで見送りを受けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます