第61話 魔弾の射手
ラタトスクはアフタヌーンティーセットの三段トレイからカップケーキを取り、もぐもぐと食べながら
『どうしてそんな風に思うの?』
「そう考えると色々と辻褄が合うんだ。神殿騎士団や民兵を含めてエルフの郷の皆に、私がサラマンダーの頭をシャープスライフルで吹き飛ばしたり、キングサラマンダーにダメージを与える所を見せることで、私が作っている銃とは道楽ではなく凄い威力を持つものだと認識させることが出来た。
その目的が果たせた頃に、ラタトスクは現れて止めを差してくれたよね。
おかげさまで私は英雄扱いだし、アクィラ達騎士団の連中も銃に興味を持つようになったのも狙いの一つかな。
今回の狙撃にしてもそうだ。ラタトスクが此処で撃てと指示した崖の下に第三軍が陣を張ったし、銀狼将軍は私達から見て絶好の狙撃位置に現れた。しかも予行演習したのと同じ場所だ。
こんな奇跡は普通に考えてあるわけがない。
ラタトスクは
じゃないとどうして、あの広大なヴァイン大平原のどこに標的が現れるなんてことを、事前に指定することが出来ると言うんだ?
そして知ってたなら、わざわざ将軍に一矢報いるのに私達を使わなくても、ラタトスクの魔法でやってしまえば良いのにやらなかった。キングサラマンダーの時と同じだね。
何故か?
どうしても私とアクィラに銃で将軍を倒して欲しかったから、としか考えられないんだ」
カップケーキを二つ食べ終わり、次いでマカロンを頬張っていたラタトスクは、口の中の菓子を飲みこんでから優雅に紅茶を飲み、石動を見て微笑んだ。
『今、王国でグラナート将軍と側近参謀のエーデルシュタイン大佐を倒した君たちの事を、なんて噂されているか知ってるかい?』
「・・・・・・? さぁ、知らないな」
『魔弾の射手、だそうだよ! 誰も手が届かない遥か彼方から魔法の礫を撃ちだし、相手をバッタバッタと打ち倒す魔法使いなんだそうだ!
ああ、そういえばあの狙撃の後の王国軍の混乱具合と言ったら、まさにパニック状態だったね。演習はすぐに中止になったし、王太子なんか他の部隊もほったらかして一目散に王都に逃げ帰ったとさ。それが混乱に拍車をかけたみたいだ。
アハハ! 愉快じゃない?! しかもその使い手はあのキングサラマンダーまで倒してしまったらしいとの尾鰭まで付いていて、王都ではスゴイ話題になっているんだってさ』
ラタトスクは仰け反るように白い
『人種は何でも自分の理解を超えることが事象が起こると、"魔法"だと言う。愚かだよね。銃とは魔法ではなく、ツトムがあんなに頑張って作った現実の"武器"なのに。
まあ、でも最初は私も良く分からなかったから、その力を確かめる意味でサラマンダーの事は丁度いいかと思ったんだ。あの馬鹿トカゲのブレスが世界樹に穴開けたからカッとなってやっちゃったけど、ホントは最後までツトムに倒してもらうつもりだったんだよ。でも思った以上に銃は威力もあったし、エルフの郷の皆への効果も抜群だったから、ヨシとしたいところかな』
「そのせいで多数の死者が出たんだぞ! 柄でもないのに英雄に祭り上げられるし迷惑したんだけど」
石動がブスッとして零すと、ラタトスクは澄ました顔でティーカップを口に運ぶ。
『その割にはロサ達若いエルフの娘たちに囲まれて、喜んでいたように見えたのは気のせいかな~。
殉職した騎士団や民兵の未亡人たちからも熱視線を浴びてたよね~。
気付いて無かったとは言わせないよ』
「ううっ・・・・・・」
『まぁまじめな話、犠牲が出たのは心から残念に思っているよ。ただ、誤解しないで欲しいけど、基本的に私の立場としては、世界樹を害する目的で他国に攻められるとか、余程の事が無い限り物事には介入しない事になっているからね。今までも魔獣の侵攻や天災で、どんな大きな被害が出ようとも郷を助けるようなことはしていないし、エルフ達からも期待されていないよ。
でも今回のは人災だから、ツトムを通して介入しようと思ったのさ。そしてその結果としてグラナート将軍の暗殺をツトムなら受けてくれると信じていたんだ』
「アクィラ達のことも計算通り、ということかい?」
ラタトスクはニヤッと笑い、頷く。
『正直そうなると良いな、とは思っていたんだが、あの弓矢信仰者達があそこまでツトムの影響を受けるとは思っていなかったよ。今回、アクィラを中心にツトムの銃を真似して創り、習い、実践したことで、少しづつエルフ達の中にライフルを使う者達が増えていくと思うし、エルフなりの独自の発展を遂げると予想している。
アクィラが使ったシャープスライフルだっけ? アレを少しづつ量産していくことになるんじゃないかな。
金属薬莢の弾は造れても高価すぎるから使えないし、紙薬莢とか言う方の弾を錬金術師たちが上手くやるだろう』
ラタトスクは手に持っていたカップとソーサーをテーブルに置くと、石動を悪戯っぽく見て尋ねた。
『ツトムはエルフ達が銃で武装するのは反対?』
「いや、数の暴力で圧迫してくる隣国に対抗する為なら、特に反対するつもりは無いかな。少数民族が生き残る術としてならやむを得ない事だと思うし。オーバーテクノロジーを齎してしまった自覚はあるから、その責任は負うつもり。ただし、エルフ達が悪用するなら私も対抗策を考えるよ」
石動はラタトスクの眼をじっと見つめながら、そう言った。
『銃の普及と鉄砲鍛冶がツトムの望みだったよね? どうやら第一歩は踏み出せたようだけど、ツトムはこれからどうしたいんだい?』
「そうだね・・・・・・。考えてる事があるんだ。ラタトスクにちょっと相談したい事があるけどいいかな?」
石動はニコッと微笑んで言った
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