第51話 銀狼将軍

 ヴインドベルク王国軍第三軍将軍であるエルンスト・グラナートは不機嫌だった。

 

 先程、謁見の間の玉座に座るアルフレート・ノイ・ディアマント王の御前で、世界樹とエルフの森への侵攻計画について報告を済ませたところだった。


 思いもよらずキングサラマンダーがあっけなく討伐されてしまい、世界樹やエルフ達にある程度の被害は与えることが出来たようだが、王国の先鋒部隊が付いた時には結界も張り直されていて、郷の中に侵攻することが出来なかった。


 サラマンダーも駆逐された後ということで、王国への被害を抑えるためにサラマンダー討伐に協力するという名目はエルフ達に拒絶された。

 協力を装いエルフの郷の中に部隊を進駐させ、そのまま占領するシナリオが崩れたため、先鋒の騎兵部隊は已む無く、急ぎ後続部隊に合流するために引き返すしかなかった。


 世界樹が健在であるなら、無理矢理王国軍が森の中に入るとまた世界樹の怒りを買い、その強大な魔法で追い返される可能性があったからだ。


「(いにしえのように大水で兵の損失を出すわけにはいかぬ。忌々しい世界樹め! サラマンダーの炎で燃え尽きてしまえば良かったのに!)」


 グラナート将軍は腸が煮えくり返る思いだったが、兵を引き上げ王国の王都へ戻るしかなかった。


 そして帰ってきたと思えば、王城入ると直ぐにやってきた近衛師団の騎士に先導され、謁見の間にて王に失敗の報告をする羽目になったのだ。


「ふん、『銀狼将軍』とキングサラマンダーの取り合わせなら、目の上の瘤を焼き払ってくれるかと期待していたのだが。・・・・・・買い被り過ぎであったか。下がってよいぞ」


 玉座に座りひじ掛けに載せた右手の掌に頬を凭れさせたディアマント王からは、失望の眼で冷たい言葉を投げられ、屈辱と焦りがグラナート将軍の身を熱くした。


 言葉もなく王の前を辞し謁見の間を出ると、廊下で待っていた第三軍付参謀のハンス・エーデルシュタイン大佐が将軍に優雅に一礼した。


「王の御機嫌は如何でしたか、将軍閣下」

「言うまでもなかろう。厳しく叱責されるならまだマシだが、嫌味を言われただけなのがかえって不気味だ。今後どのような形で失敗の責任を取らされるか、分かったものではないわ」


 怒りを隠そうともせず、焦りからか、いつもより歩調が早い将軍に足並みを合わせながら、エーデルシュタイン大佐は左手を顎に当て考え込むような仕草で呟く。


「ふむ・・・・・・それはマズいですね。私の方からもいくつか手を打っておきましょう」

「使えん商人どもの処理も忘れるな」

「了解しました」


 少しグラナート将軍の歩調が落ち着いてきたのを見て、エーデルシュタイン大佐は尋ねた。


「それで、来月の三軍合同の大規模演習の事ですが、予定通り参加する方針で宜しいのでしょうか?」

 グラナート将軍は思わず顔を顰めたがうなづく。

「已むを得まい。元々の予定であるし、先日の出兵も森まで行軍しただけであったしな。失敗した作戦のために演習に不参加となり、皆の笑い物になるような真似は避けるべきだろう」

「了解いたしました。それがよろしいかと。ではそのように手配いたします」

「うむ」



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