第50話 推定有罪

 アクィラは肩をすくめて苦笑いする。


「では王国軍は何故、帝国と戦う前に数万の軍勢でこの郷を攻めないのでしょう?」

「そりゃ世界樹様がいるからな。まず、人族の力ではあの結界は破れない。キングサラマンダーのブレスの様な規格外の力でないと無理だ。そして人族は魔法を使えない。だから物理的な武力で数を頼んで押してくる。でも、世界樹様の魔法には痛い目にあっているから恐ろしくて手を出せないんだ。昔、世界樹様の怒りを買って、王国軍一個師団が水で流された事があるらしい」

「ええっ!水で?!」

「森に火を放って攻めようとした王国軍に怒った世界樹様は、森の中に人の高さ以上の水の壁を作って、それを王国軍に向かって勢い良く押し流し、王国軍はそのまま大河までゴミのように流されて捨てられたと聞いた。その時の水死者は一万とも二万ともいわれている」


 石動イスルギは水洗トイレを連想し、次いで自衛隊時代に鉄砲水で被害を受けた被災地に災害派遣された時のことを思い出して、少しだけ王国軍の兵士に同情した。


「だから今回の企てがもし上手くいって、混乱の中、森や郷でエルフ族と人族が入り乱れてしまえば、世界樹様と言えど同じような対応は難しい。それに加えてキングサラマンダー達の襲撃により神殿騎士団が壊滅したり、世界樹様が燃えてくれれば儲けものと考えていたのだろう。実際、そうなりかけたしな。生き残りのエルフが居たなら、王国に拉致して連れ帰れば奴隷として高く売れただろうしな」


 アクィラは眉を顰め、眼の中に憎しみの炎を燃やす。

 その隣でロサも自身の肩を両手で抱いて、怯えたように身を竦めていた。


「だが、残念ながら以上のことは推測でしかない。状況証拠だけで王国が企んだという確たる証拠はないんだ。黒ずくめの男達も身元を示す物は何も無かったし、ハープギルの配下だとしてもサラマンダーの襲撃に巻き込まれて死んだ商人と言われれば御終いだ。ハープギル自身も既に死んでるし、正に"死人に口なし"ってヤツだな」

 アクィラはため息をつき、両腕を処置無しとばかりに頭の上まで上げる。

 石動は頷いたが、あることに気が付いて指摘する。

 

「でも、ラタトスクは怒ってました。絶対許さないって」

「そのとおり。世界樹様も俺達も、このままやられっ放しで済ますつもりもないさ」

 アクィラはニヤリと笑い、石動に悪戯っぽく呟く。

「そこで、ツトム。相談なんだが・・・・・・ちょっとばかし手を貸す気はないか?」

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