第49話 陰謀

 それからしばらくは木陰に座り、果実水を飲みながら他愛ない話をした。

 ふと気になって、石動イスルギはアクィラに尋ねる。


「結局、何だったんですかね、あれは? あのキングサラマンダーの子供と言い、サラマンダーの大群も含めて、ラタトスクが"企み"って言ってたけど・・・・・・」

「う~ん、まぁ『キングキラー』になら言ってもいいか・・・・・・」


 アクィラは少し眉を顰め、ボツボツと話し出した。 

 

 アクィラ曰く、災害復旧工事で瓦礫を片付けていると、不審な死骸が幾つか見つかったのだという。

 ブレスに巻き込まれたのか、殆ど炭化している者もあったが、人間種であり焼け残った者の服装は黒ずくめで、如何にも怪しげなものだったらしい。


 また、サラマンダー達が全滅した日の午前中には、王国から千人を超える軍勢が森に向かっていることを察知された。そのためキングサラマンダーに破られた結界を張り直して警戒していたところ、軍勢は午後には結界の周りに到達して、結界内に入れずウロウロしていたので誰何した。


 王国軍の将校たちはまず神殿騎士団達が出てきたことに驚いたようだったという。

 その将校が言うには、キングサラマンダーの集団がエルフの郷を荒らしていると聞いたので、その矛先が王国に向かうようなら魔物を討伐するべく出陣してきたとのことだった。

 キングサラマンダーらは討伐したと答えると、将校は再び大層驚いてしばらく無言だったが、踵を返して軍勢を連れて王国に帰っていったという。


 そして、神殿横の倉庫にキングサラマンダーの子供が入った木箱を置いたのは、納品書や該当の木箱周辺の商品から見て王国の商人ハープギルであると判明した。

 襲撃があった日の二日後、つまり王国の軍勢が帰っていった翌日にはハープギルの王都の自宅と店舗に賊が入り、ハープギル自身はもちろん家族全員が皆殺しにされ、家屋敷や店は放火され全焼したらしい。


「要するに状況証拠しかないが、王国の陰謀だった可能性が高いということだな。やってきた王国軍の軍旗は第三軍のエルンスト・グラナート将軍のもので『銀狼将軍』と呼ばれている陰険なヤツだ。狼と言うより狐のような狡賢さだが」


 アクィラは鼻に皺を寄せ、嫌悪の表情も顕わに吐き捨てた。


「おそらく、黒ずくめの奴らはハープギルの商隊に紛れ込んでこの郷に侵入した者で、狐将軍の軍勢を招き入れる段取りだったんだろう。結界はキングサラマンダーが破っている予定だったしな。ツトムがキングサラマンダーを倒してしまったのが奴らの計算外の事だったわけだ」

「だから、キングサラマンダーを倒したのはラタトスク・・・・・・ってそれはもういいか。何故、王国はそんなことを企んだのでしょう?」


 石動は苦笑いしながらも疑問に思ってアクィラに尋ねる。


「王国の奴らは昔からこの森が目障りで仕方ないんだ。世界樹様の結界に守られたこの森を真っ直ぐ抜けて帝国に侵攻するのが一番近道だが、この結界が張られた森を王国軍が通ることは不可能だ。森を抜ければ最短ルートで帝国に侵攻出来るのに、帝国との度重なる戦争で遠征する際はこの森を迂回せねばならないのが効率が悪く腹立たしいのだろう。今まで何度も金を払うから補給のために郷に入らせて欲しいと王国から要請があったけど、全て断っているよ」

「そりゃまた・・・・・・えらく露骨な申し出ですね」

「そうだろう? 誰が狼の群れを好んで郷に引き入れるものか。我々も弱くはないが数が少ない。王国軍数万には対抗できんよ」

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