第48話 復興
サラマンダーの襲撃事件から7日後・・・・・・。
今日も住民総出でエルフの郷の復興のため、あちこちで賑やかな掛け声や槌の音が響いていた。
負傷者から重症者まで被害にあったものは神殿に集められ、手当てを受けている。
郷の中は、かなりの家屋や商店などの建物が被害を受けたり焼失したりしているため、その焼け跡の瓦礫撤去から始まり、黒焦げになった死体の埋葬など、やることは山積みだった。
「ツトム! それ持ち上げてくれ!」
「了解! うぉーりゃあー!」
「いいぞっ、気合入れろよ!」
自衛隊時代に災害支援で出動した時のことを思い出す。
焼け焦げた太い柱の様な木材を持ち上げて運び、邪魔にならない場所へ降ろす。
既に煤で全身あちこち黒いが、気にせず汗を首から下げたタオルで拭くと、顔が斑に黒くなった。
「おおーっ、ツトム。男振りが上がっているぞ!」
「流石はキングキラーだなっ! 今度はマダムキラーでも狙ってみたらどうだ? 今なら選り取り見取りだぞ。ガハハハッ」
それを見ていた神殿騎士やエルフ達が笑いながら声を掛けてくる。皆の明るい笑顔が救いだった。
石動も笑顔を返す。
神殿騎士らは石動がサラマンダーらを数多く殺し、最後には皆が絶望する中、独りでキングサラマンダーに立ち向かっていたのを見ている。
最後はラタトスクが仕留めたとはいえ、石動がキングサラマンダーに致命傷を与えたのは間違いないと皆の意見は一致していた。
そのせいか、いつの間にか石動の事を親愛の情と尊敬の念を込めて「キングキラー」と呼ぶようになったのだ。
もちろん、今のように冷やかしのネタにされることの方が多いのだが。
「何っ、レディキラーがロサをどうするって?!」
そして一番、石動をからかってくるのはこの男だ。
背後から声がかけたのは、神殿騎士団の副団長でロサの兄のアクィラである。
石動がその声に振り返ると、ニヤニヤしながらアクィラが立っていた。
隣にいる供の騎士の眼が、申し訳ないと石動に訴えている。
その横で柳眉を逆立てたロサがアクィラを睨みつけていた。
「お兄ちゃん! いい加減にしないと怒るよ!」
「ハハハ、すまんすまん。ツトム、ロサの差し入れだ。少し休憩しないか?」
皆で被害を受けなかった街路樹の木陰に移動して休憩することになった。
木陰に向かうアクィラは軽く左足を引き摺っている。左腕も肘から手首までの途中で消失している。
パトロール中にキングサラマンダーらの集団に遭遇し、ブレスを受けたアクィラは、太い木の陰に飛び退いたおかげで即死は免れたが、ブレスが近くを通過したため左半身に重篤な火傷を負ってしまう。
気を失って森の中で倒れていたところを、アクィラ達を捜索に来た騎士団の手で救出され、神殿に運び込まれた。
顔や身体の火傷は神官たちの手厚い回復魔法と治療で治ったものの、炭化して失われた左腕はラタトスクの回復魔法でも戻らず、左足にも障害が残ってしまった。
石動の視線で気が付いたのか、アクィラは肘の先までしかない左腕を振って見せる。
「キングサラマンダーなんて化け物に襲われて、これくらいで済んで俺は幸運だったよ。俺の小隊はアイツのせいでほとんど全滅だ。部下たちの無念を思うと片腕なんてどうということはない」
「・・・・・・」
「ツトム、お前は俺や部下たちの仇をお前は果たしてくれた。本当に感謝しているんだ。ありがとう」
「いやいやっ! 最後はラタトスクが止めを刺した訳だし。それより自分の銃撃のせいでキングサラマンダーのブレスの被害が町中に広がってしまったから・・・・・・。ラタトスクに任せておけば、もっと被害が少なくて済んだんじゃないかって・・・・・・」
石動は責任を感じて呻くように言い、下を向く。
「何を言ってるの? 誰もそんなことは思っていないわ」
ロサが冷たく冷やした果実水を木のコップに入れて石動に差し出しながら微笑む。
「ツトムが居なかったら、今頃はこの郷は全滅していると思うの。もしかしたら世界樹様だって燃えてなくなっていたかもしれない。世界樹様だって万能ではないのよ。キングサラマンダーが弱っていなかったら世界樹様だって止めを刺せたか疑問だと思うわ」
「そうだぞ、ツトム。俺はその場面を見ていないが、神殿騎士団の団長をはじめ皆がお前の働きを称え、尊敬する行動だったと言っている。謙遜するのもいいが、しすぎると嫌味になりかねんからな」
下を向いていた石動が顔を上げると、アクィラとロサが微笑みながら真直ぐに石動を見つめていた。供の騎士もアクィラの横で笑顔で頷いている。
「・・・・・・こちらこそ、ありがとう」
石動が小声で言うと、アクィラが右手で石動の頭をクシャクシャとかき回した。
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