第47話 討伐

『ツトム、よく頑張ってくれたな、礼を言うよ。遅くなって済まなかった。後は任せてくれ』


 突然、石動イスルギから2メートル程離れた空中にラタトスクが現れ、宙に浮いたまま優しく話しかけてきた。

 ラタトスクの眼は怒りに燃えていたが、口調は平穏だった。


『ツトムが責任を感じることはない。初動の対処が遅れたのは私のせいだし、全てはこの騒動を企んだ者達が原因だ。私はそいつらを絶対に許しはしないよ』


 ラタトスクは石動の眼を見つめて微笑んだ後、キングサラマンダーに向き直り呻くように言った。

『この身の程知らずの愚かなトカゲめ。この森に、そして私に手を出した報いを受けるがいい!』


 ラタトスクの身体が光に包まれたかと思うと、両手をキングサラマンダーに向けた。


 ドプンッ!!


 大きな音と共にキングサラマンダーの身体が巨大な水の塊に包まれ、宙に浮く。


 水の塊はキングサラマンダーの高温の鱗に当たっているはずなのに水蒸気になることも無く、高温によって沸騰する気配もない。

 キングサラマンダーは水の中で藻掻くが、完全に水に捕らえられていて脱出は不可能のようだ。

 ブレスを吐こうとしたのか、口を開けたが口の奥が蒼く光ったと思うと光が消え、かえって水を飲んだかブクブクと泡を口から吐いて溺れだす。

 そのうち、キングサラマンダーの蒼かった鱗にヒビが入り始め、色が蒼から黒っぽく変わってきた。

 バタバタと水の塊の中で暴れていたキングサラマンダーの眼や棘の色も、鮮やかな金色だったのが灰色っぽい色に変わり、次第に動きが鈍くなっていく。


 水の塊からかなり離れた石動の所にまで水の塊が発する冷気が伝わってくるほどなので、どうやらキングサラマンダーは低温の水の中で急速に冷却されているようだ。


 いつのまにか世界樹の火も鎮火され、火を噴きだしていた穴からは水がしたたり落ちている。


 暫くすると遂にはキングサラマンダーの身体を覆う鱗がバキバキにひび割れて剥がれ落ちて、キングサラマンダーは水の塊の中でゆっくりと仰向けになり、白い腹を上にして全く動かなくなった。


 暴れていたサラマンダー達もキングサラマンダーが動かなくなったのを見ると、途端に動きがバラバラになり、攻め込もうとしていた動きが鈍くなった。

 森へ逃げ帰ろうとした個体も多かったが、怒りに燃えるエルフ達に捕まり矢の集中砲火を浴びて個別撃破され、朝日が顔を覗かせるころには襲ってきたサラマンダー達は全て殲滅され、死体となった。


 こうして世界樹の森とエルフの郷に過大な被害を与えたキングサラマンダーの襲撃は、やっと幕を閉じたのだった。

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