第45話 惨状

 爆発の衝撃波と破片は神殿の屋根に居た石動イスルギの所にも飛んできた。


 爆発の瞬間、とっさに遮蔽物の影に伏せたので直撃は受けなかったが、大量の水と超高温のブレスによる水蒸気爆発の規模は凄まじく、遮蔽物にしていた石のように硬い屋根の飾りが破片によってかなり削られている。

 まだカンカンと音を立てて雹のように小さな破片が降ってくる中で、身を乗り出して眼下を見下ろした石動は息を呑んだ。


 まだ水蒸気が霧のように立ち込めて見え難いが、噴水のあった場所が爆撃を受けた跡のように黒焦げのクレーターになっていて、広場にいた軽装の民兵は吹き飛ばされ、手足を失った者や破片を受けて出血しながら倒れ伏した者が大多数で、そのほとんどかが戦闘不能になっているようだ。

 鎧を着ていた神殿騎士はまだマシだが、負傷した騎士達も多く、全体の戦力は半減どころではない。


 たった一発のブレスでこれか・・・・・・。


 サラマンダー達の方を見ると、ブレスで開いた土嚢の穴を通って神殿広場に侵入しようと集まり犇めいていた。

 残りの神殿騎士たちが必死に矢を射て撃退しようと奮闘しているが、このままでは侵入を許してしまうのも時間の問題に思える。


 なにより・・・・・・。


「(キングサラマンダー、アイツがもう一度ブレスを放てばそれで"詰み"だ。アイツを倒さねば!)」


 石動は用心鉄レバーを下げて遊底チャンバーを開き、薬室内に装填してあった50-90弾を抜くと、新たに弾薬ケースから出した50-130弾を装填する。

 シャープスライフルの照準をキングサラマンダーの目と目の間に合わせた石動は、静かに引き金を落とした。


 ドバァンッ!


 明らかに50-90弾より火薬の多さを感じさせる盛大な発射音と煙を立て、発射された弾丸は狙いよりやや上に着弾し、頭の上に生えた金色の棘を一本、吹き飛ばした。


 照準のダイヤルを50-90弾に合わせていたので、それより高圧の50-130弾をそのままの狙いで撃ったため、弾が上に逸れたのだ。

 普通ならやらないミスを犯すことで、焦っている自分を自覚した石動は思わず舌打ちし、次いで深呼吸して気持ちを落ち着けると、再度装填したシャープスライフルを構え、照準ダイヤルを動かす暇はないので、狙点より少し下を狙って撃った。


 ドバァンッ!


 棘を飛ばされて怒り、首を擡げて警戒していたキングサラマンダーの眉間に、50口径の巨弾が着弾する。

 がしかし、鉛の弾頭はキングサラマンダーの眉間を吹き飛ばすどころか、硬い鱗に潰れて張り付いたと思ったら溶けてしまう。


 キングサラマンダーの鱗が硬いのに加え、鱗の表面の温度が高く、鉛の溶ける温度は327度であるからそれ以上の400度近い高温でバリアを張っているような状態のようだ。

 それならと試しに前足の後ろや腹などにも撃ち込んでみたが、同様に弾頭が着弾と共に溶け、効果が無い。


「(くそっ、まさか弾頭が溶けるなんて考えもしなかった。銅で弾頭を作っておくべきだったな・・・・・・)」

 銅の溶ける温度は1085度なので、そこまで鱗の温度が高いとは思えない。

 その時、ハッと石動はマジックバックに仕舞ってあるレミントンM700カスタムを思い出す。

「(308ウインチェスター弾の弾頭は銅製だ!)」


 

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