第40話 誕生日

 神殿騎士団の騎士2人が蒼白になり、バッと跪くとラタトスクに頭を下げる。


「申し訳ありません!」

「私達が殺してしまったばかりに! 罰は如何様にもお受けします!」

 ラタトスクが気にするなとばかり片手を振って騎士達を見る。

「お前たちは被害を食い止める為にやるべきことをやったまでだ。咎めるつもりはないよ。

 いずれせよ止めは私がしたようなものだしね。 

 それよりこの子の助けを求める悲鳴は親に届いているだろうと思うよ。天井をぶち抜いて火柱もあげてたし、おそらく親のキングサラマンダーは此処までやってくるだろう。もしこの子が生きていたとしてもこんなに縛られて、虐待されてる姿を見れば許してもらえたか怪しいもんだよ。

 となると闘うしかない。仕組んだ奴の計略に嵌るのは業腹だけど、罠を食い破ってこそ仕返しのチャンスがあるってものだよね」

 

 ラタトスクはニコッと笑った後、スッと凄みを感じさせるような笑みに変えて指示を出す。


「神殿騎士団の団長に通達。陣形を整え、城塞での攻撃をすり抜けた敵を神殿前で迎え撃つ。非戦闘員は神殿内に避難し、民兵も動員して防衛線を張れ!」

「ハッ! 直ちに団長に申し伝えます」

 騎士2人はサッと右手を心臓の前に拳を掲げて敬礼すると、踵を返して走り去った。


 その姿を見送ることなく、ラタトスクは石動イスルギに振り向くと笑顔で見上げてきた。

「ツトムも力を貸してくれるかい?」

「もちろんだとも」

 石動は敬礼の代わりに右手で胸をドンっと叩いて、努めて明るく笑顔を返してみせた。



 ラタトスクが神殿の中に戻った後、石動は周りを見渡し迎撃する場所を探す。


 出来るだけ高い位置で狙撃しやすく、かつ遮蔽物がある場所が良いなと思いながら見渡すと、パルテノン神殿風の柱が聳え立つ神殿の屋根の部分にスペースがあるのに気づく。


 通りかかった神官に尋ねると、あの屋根部分に続く階段や扉は無く、誰も上がることはないという。

 神官の許可を得て、ロープの先にフックを結び屋根の上へ投げる。

 何かに引っ掛かったので体重をかけて引っ張って外れない事を確認し、腕の力で身体を持ち上げ足は柱を蹴りながら屋根まで登っていった。


 上まで登り切り身体を屋根のうえに上げてみると、神殿の張り出し部分の先端と世界樹の幹との間には5メートル程の幅でスペースがあり、その後ろは元々の削り出した世界樹の幹に繋がっていた。


 神殿正面からみた屋根部分の飾りが良い遮蔽となり、背後は世界樹の幹部分があるので気にする必要はなく、狙撃ポイントとしては申し分ない環境だ。


 遮蔽にする屋根の飾りの間から、シャープスライフルを構えてみた。


 物見櫓が破られた辺りでは、また新たな火の手が上がったり爆発音が響いてエルフ達と魔物の闘いの声が聞こえてくる。

 シャープスライフルを構えたまま、その方角や周辺を索敵してみたが、まだ防衛網を抜けて神殿まで来た魔物はいないようだ。それでも火の勢いは増し、延焼する範囲は広がっている。

 

 眼下に視線を降ろすと、神殿前の広場には土嚢が積まれ、神殿騎士たちが慌ただしく動き回りながら防衛線を張ろうとしていた。

 避難してきたと見える民間のエルフの家族の姿も見え、母親に手を引かれて怯えた顔で神殿に向かう幼子の顔を見た石動は、ふと前世界での家族の事を思い出す。


 そんな時、ポケットに入れていた携帯のバイブが作動しているのに気がついた。

 引っ張り出して見ると、携帯の時刻表示が24時を超えて4月11日になったので、以前登録していたスケジュールの予定通知が画面に表示されていた。


それは今日が石動の” My Birthday” だという通知だった。


 「・・・・・・誕生日かぁ、忘れてたな。まさか異世界で28歳の誕生日を迎えるとは思いも依らなかったわ。ハハ・・・」

 

 画面を見て苦笑した石動は、つい昔に家族で迎えていた誕生日の日々のことを思い出してしまった。

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