第39話 キングサラマンダーの子
「早く火を消せ!」
「水だ! 消防団は何をしている!」
火柱を上げた倉庫を見て、神官たちがオロオロしながら慌てふためいていた。
神殿は世界樹をくり抜いたものであり、大理石の様な硬度があるとはいえ、元は木材なので高温に晒されれば燃え移るだろう。神官たちが慌てるのも無理はない。
ドアの左右に石動と騎士が分かれ、取っ手に触って加熱してない事を確かめると眼を見合わせて頷く。
石動がブーツでドアを蹴破り倉庫の中に騎士たちと突入すると、中で1メートル程の蒼いトカゲが針金のようなものに縛られ、のたうち回って暴れていた。
近くに焼け焦げて壊れた木箱の破片や中身が散らばっていて、箱の中に閉じ込められていたのを破壊して出てきたようだ。
逃げようにも身体を針金でぐるぐる巻きにされており、暴れるほど針金が肉に食い込んで血が滲み、怒りに火を注いでいるようだ。
怒りに任せて口から吐息の様にボッ、ボッと青白い炎を吐いていて、既に貯蔵している燃えやすい穀物などに火が回り始めていた。
突入してきたのに気が付いたのか、黄色い目を石動達にカッと向け、口を大きく開けてブレスを吐こうとしているのを見た2人の騎士たちが素早く矢を射る。
一本は口の中から頭を貫通し、もう一本は胴体を床に縫い付けた。
それでも甲高い悲鳴を上げながらのたうつのを見て、石動はその生命力の強さに寒気を感じる。
「なぜこんなところにサラマンダーが!」
「いつの間に入り込んだのだ?」
騎士たちがまだ弓を番えたまま、驚いたような声を出す。
「いや、壊れたあの木箱を見ろ、二重底になっている。あれに入れて運び込まれたんだ」
石動は冷静に状況を見ていた。
何故あのバラバラの木箱は二重底になっていたのか。その木箱がなぜ燃えて壊れているのか。サラマンダーが縛られているのはなぜか。
普通に考えれば、サラマンダーをあの箱の二重底に隠し、ここに運び込むためと考えるのが妥当だろう。
3日ほど前に、商人たちからの納品を受けてこの倉庫に荷物が運び込まれていたのを石動も見かけていた。
ただ何のために運び込まれたのか、そして今まで暴れなかったのはどうしてかが分からない。
「そのサラマンダーは只のサラマンダーではない。キングサラマンダーの子供だね」
いつの間にかラタトスクが倉庫の入り口に立っていた。
ラタトスクは無詠唱で水魔法を使い、手からジェット水流を出すと未だに悲鳴を上げるキングサラマンダーの子供に浴びせかけた。
キングサラマンダーの幼体は、水を浴びせられるとその体からジュゥゥという音と共に大量の水蒸気が立ち昇らせる。
ラタトスクは、次いで周りの火がついた貯蔵品や木箱、穴の開いた天井などにも水流を浴びせて消火する。
そしてぐったりしているキングサラマンダーの尻尾を持ち上げ、調べ始めた。
「ふむ・・・・・・なるほど」
石動もラタトスクの横に行くと、膝を着いてキングサラマンダーを調べる姿を見守る。
「何か分かったのか?」
「うん。おそらくツトムの言うとおり、あの木箱に入れて納入品と共に3日前に運び込まれたんだろうね。今日まで大人しかったのは薬で眠らされていたのだろうな。そしてサラマンダーの襲撃と共に目を覚ました」
ラタトスクの表情がギュッと締まる。
「先程の大音響の咆哮と火柱を見た? アレを引き起こしたのは巨大な蒼いサラマンダーだったそうだよ」
「!! それじゃあ」
「そう。今、郷を襲っている蒼いサラマンダーはこの子供のキングサラマンダーの親で、この子を取り戻しに来たと考えるべきだね。誰かがこの子を誘拐して親に追わせ、この郷を襲うように仕組んだのだろう」
「! では」
石動は子供のキングサラマンダーを指さして、ラタトスクの肩を掴む。
「この子を返せばキングサラマンダーの親も引いてくれるかもしれない!」
「無理だね」
ラタトスクがつまんでいたキングサラマンダーの尻尾を離すと、尻尾は力なくパタッと倉庫の床に落ちた。
「こいつはもう死んでいる」
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