第37話 ブレス
アクィラたちがサラマンダーと遭遇したのは、神殿騎士団のエルフ達の足で郷から森の中を6時間ほど進んだ場所だった。
団員たちの中で一番足の速い者2人を郷への伝令に走らせる。
残りの者とアクィラは少しでも魔物の数を減らすべく奮戦しつつも、無事に撤退しなければならないという難しいミッションをこなすことになった。
幸い、サラマンダーの鱗にもエルフの強弓は通用し、頭や前足の付け根にある心臓を射抜くと倒せることが分かった。
それに対してサラマンダーは手足は短いものの、尾をばねの様に地面や樹に叩きつけて空中に飛びあがると口から高熱のファイヤーボールを飛ばしてくる。
それは樹の幹などに当たると弾けてナパーム弾のようにゼリー状のものが激しく燃えて飛び散り、生木でさえ燃やし尽くしてなかなか消えないという厄介な代物だ。
直撃を受けた団員は絶叫しながら皮鎧についた炎を消そうと地面や草の上を転がるも、却って火を広げてしまい自分自身が松明の様に炎上する結果となってしまった。
その惨状を見てアクィラはギリっと歯ぎしりをし、大声で指示を飛ばす。
「隊列を乱すな! 遮蔽は太い木の陰に入れ!」
アクィラは右手から飛び出し、正に火を吐こうと口を開けたサラマンダーに弓で射掛け、口の中から後頭部へ矢で貫いた。
「畜生! 俺たちの森が・・・・・・」
「森が燃える! こいつら許せねえ!!」
辺りはファイヤーボールの直撃を受けた大樹はもちろん飛び散った破片から火が付いた下草なども燃え盛り、灼熱地獄の様な様相を呈していた。
森と共に生きるエルフとして森を破壊するものは許すわけにいかないが、騎士団員たちは消火せずに逃げるしかない自分たちを顧みて悔し涙を流しながら、怒りを込めてサラマンダーに矢を射る。
幸いサラマンダーの足はエルフ達ほど素早くなく、背後の部下たちが撤退する様子を窺っていたアクィラはこのままいけば逃げ切れるかもと思いはじめる。
そんな希望を胸にアクィラが茂みから飛び上がってきたサラマンダーを右手の剣で首を飛ばした時、ゆっくりと地響きを立てながら進んでいた蒼いサラマンダーが突然吠えた。
「GARRRRRRRRUUUUUUUUUU!!!」
ビリビリと響き渡った大音響に威圧され、アクィラも思わず動きを止めた。
その声が響くと他のサラマンダーたちがサッと蒼いサラマンダーの前から避けるように居なくなったのに気づく。
「ヤバいヤバいヤバい、総員」
本能的に危険を察知しアクィラが退避、と言いかけたところで蒼いサラマンダーの口から、深い海の底の様な藍色のブレスが放たれた。
その炎の温度は恐らく2000度をも超えているかもしれない。
蒼いサラマンダーの口元がカッと光ったかと思うとゴォッという轟音を立て、途上にある全ての物を蒸発させるかのような勢いで薙ぎ払いつつ、地面をガラス化させながらアクィラ達の方へと向かってくる。
「ロサ・・・・・・」
アクィラは無駄かもしれないと思いつつも、横っ飛びに木の陰に伏せながら最後に祈るように呟いた。
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