第36話 サラマンダー

 あの「渡り人」の成長は面白い。あの剣と「らいふる」を合わせた技は厄介だ。今度手合わせするときはどうしてやろうか。

 そんなことを考えながら森の中を進んでいたアクィラは、ふと異変を感じ、小隊に合図を送る。


 合図を受けて散開し、じっと森と同化して警戒態勢に入った部下を頼もしく思いながら、アクィラは異変の主を探った。


 暫くして前方の低い崖の上にその気配の主が現れ、木々の下生えの叢が揺れる。

 揺れた叢の中からヌッと身体の半分近くを占める巨大な頭がまず現れた。

 続いてずんぐりとした身体も顕わになり、短い尻尾も合わせると真っ赤なアオジタトカゲの様に見える。

 その体長は2メートル程で、大きな頭に深紅の眼を持ち、全体的にヌメッとした紅い鱗に覆われていた。その大きさや色だけでなく実際のアオジタトカゲと全く違う点は、口からチロチロと見えるのは青い舌ではなくて白みがかった高温の炎である事だった。


「なんとサラマンダーか! なぜこんなところに・・・・・・!?」

「本当にいたとは!?」

「サラマンダー!! 魔大陸にしかいないはずでは!?」

 

 口々に騎士団員たちが驚きを口にする。アクィラの頭の中でも"何故?"という思いがぐるぐると回っていたが、同時に面白くなってきたとも感じている。

「魔物退治はこうでなくてはな。トカゲごとき一捻りにしてくれる」

 

 自らも奮い立たせるように大声を上げ、騎士たちに攻撃の合図を送ろうとしたアクィラは再び違和感を感じる。

「なんで気配が収まらないんだ・・・・・・? いや、増えているのか?」


 ハッとして周りを見渡すと、木々の間に数十匹のサラマンダーの口から漏れるチロチロとした炎が薄暗い森の中で不気味に揺れていて、自分たちが包囲されている事に気が付いた。

 アクィラの背中を冷たい汗が流れる。

「マズいな、魔物風情が味な真似をしてくれる」


 この数は計算外だ。

 群れで攻撃されたら郷や森への影響も大きいだろう。

 何とか切り抜けて撤退して報告することを考え始めたアクィラの前に、藪の中から地響きを立てて体長10メートルはあろうかという巨大なサラマンダーが姿を現す。


 ほかのサラマンダーと違って鱗の色は藍色のような深い蒼で、頭の天辺から背中にかけて背びれの様に短い棘がある。印象的な眼は鮮やかな黄色で、口から洩れる吐息の様な炎はまるでバーナーのそれの如く蒼い。


「総員撤退ッ!! 退路を確保しろ! 全力で戻るぞ!」


 には勝てない。

 アクィラは素早く判断すると自身が撤退戦の殿しんがりとなるべく、追ってくるサラマンダーたちに矢を射かけながら腰の剣を抜いた。


 

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