第35話 異変
その夜、神殿内の自室で
「(火の魔石を錬成した雷管もどきはあと10本しかないから、400発は撃てる計算か・・・・・・。手持ちの実包が200発くらいだから、もう100発は作っておきたいな。作った分はマジックバックに仕舞えばいいんだし)」
石動は一度はベッドに入ったもののなんとなく落ち着かず、寝付けないので起き上がり単純作業である実包づくりをすれば眠気が来るかもと思って始めたのだ。
意に反して眼は冴えてしまい、眠気が来る気配はない。
予定の100発を作り終えて、手元の携帯を見ると時刻は深夜を過ぎていた。まだ眠くならないので、もう少し余計に作ろうかそれとももう横になろうか迷っていると、窓の外から聞きなれない半鐘を鳴らすような音が聞こえてきた。
石動が何だろう、と不審に思って窓を開けて外を窺うと、夜の闇の底にオレンジ色に光る何かが見えた。
「・・・・・・火事かな?」
あまり気にしていなかったので気が付かなかったが、城塞の何箇所かに物見櫓のようなものがあり、そこにある半鐘が鳴らされているようだ。
暫く様子を窺っていると、だんだん騒ぎが大きくなるにつれてオレンジ色の光が見える範囲が広がっているように見える。
と、大きく炎が夜空に吹き上がると、悲鳴とともに狂ったように叩かれる半鐘の音が響いてきた。
「(これは只事では無いな)」
素早く着替えてサーベルベアの皮鎧を纏い、腰に小剣、背中に着剣したシャープスライフルをスリングで背負う。
マジックバッグの中の弾薬や万一のためのボウガンなどがあることを確認すると、石動は部屋を出て駆けだした。
ーーーー時間を戻して同じ日の早朝
神殿騎士団の副団長であるアクィラは、当初出動命令に乗り気ではなかった。
どうして俺がこんなつまらん任務で出なければならないのか?
魔物が出たというが、そんな事くらいなら珍しくもない。調査なら分隊を幾つか派遣して森の中を調べれば済むことだろう。
部下たちの能力は把握しているので、森の中で出会う魔物位なら後手に回ることはないと確信できる。
そんなことをしている間にはあの「渡り人」の稽古相手でもしている方が面白い。
最初は妹の奴がしょっちゅう名前を口にするので癇に障り、軽く懲らしめてやろう程度の気持ちだった。
実際、両刃の剣には慣れていないようで独特の剣の扱い方をするため、ぎこちないうえ大して強くもなく正直期待外れだと感じていた。
ところが変わった形の木の柄の先に短刀を取り付けた短槍のようなものを使い始めてから、動きが変わり始める。
打ち合っていても鋭い動きをするので、思わず本気にならざるを得ないケースが出てきたのだ。
そして極めつけがあの火で金属を飛ばす杖だろう。ツトムが「らいふる」と言っていたアレだ。
射場での練習を見ていたが、初めて見た時は驚きで背筋が寒くなった。
まず撃ってから的に当たるまでの速さが尋常ではない。弓矢など比にもならない。
試しに100メートルの場所に人の頭ほどの南瓜を置いて、その威力を弓矢と比べてみたことがあったが、矢は当たったら刺さるだけだったのにツトムの「らいふる」は当たった途端に南瓜が粉々に吹き飛んだ。
見ていた者は皆、唖然として言葉が無かったものだ。
最近は変わった形の木の槍ではなく「らいふる」の先に短剣を着けて訓練しており、切り結んだあと間合いを取られたと思うと、「らいふる」の黒く大きな銃口が自分に向けられガチンッと空撃ちされると冷や汗が出た。
もちろん訓練なので「らいふる」に弾は装填されていないが、いくら何でもあの至近距離で実際に撃たれたら避けるのはまず不可能で、南瓜と同じ運命をたどることになるのは間違いない。
訓練の中で「今死んだ」と感じさせられるのは、かの剣聖との試合の時以来で非常に興味深い。
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