第32話 試射③

 午後までかかって試射を一通り終えた石動イスルギが思ったことは、結果的に50-90弾に重めの550グレインの弾頭を付けたものが一番安定して精度が良かったということだった。

 弾頭が重い分、大型獣に対する殺傷効果も期待できる。


 1874年にアメリカ人のビリー・ディクソンという人が、第二次アドービウォールズの戦いの時に50-90シャープス弾(金属薬莢弾を使用)を用いて伝説的な1538ヤード(約1406m)の射撃を行ったという記録があると何かで読んだ事があった。

 石動は現代の狙撃銃でも338ラプアマグナム弾を使わないと無理じゃね? と眉唾物に思っていたが、実際に使用してみると黒色火薬を使う旧式の紙巻薬莢のシャープスライフルでも捨てたものではなく、300メートルくらいなら必中弾を撃ち込める自信がついたのだった。 


 ちなみに50-130弾は試してみたら500グレイン以上の重い弾頭だと、反動と発射煙が凄すぎて非常に使い難いことが分かった。

  ただ、軽めの330グレインの弾頭を付けた弾はなんとか撃てない事も無く、100メートルでゼロインして300メートルの標的を撃っても30センチしか下に着弾がずれていなかったので、長距離狙撃用にキープすることに決める。

 火薬増量で初速アップの効果は狙い通り出ているようだ。


 50-110弾はその中間の性能で何やら中途半端な気がして、今回は採用を見送ることとした。


 試射の間中、神殿騎士団のエルフ達が自分の弓の訓練を放り出して見物しに来たため、石動の射場の後ろは見物人で黒山の人だかりになってしまい、いちいち撃つたびに背後で当たったとかまた外れただのワイワイと評論されたり、何かと質問をしてくる者がいたりで集中力が切れたりしたのも訓練の一環だと思うことにしておく。


 石動は黒色火薬が金属に対する腐食力が強いので素早くシャープスライフルを分解・掃除すると、設置したテーブルや椅子などと一緒にマジックバッグに仕舞った。

 ふと気になって袖や肩など上着の臭いをクンクン嗅いでみる。


「うわっ、体中に火薬の臭いが染みついてる! 帰ったらまず風呂に入らないとな」


 今日は得るものも多かったが何やら精神的に疲れたので早めに神殿へと帰るべく射場を後にした。

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