第31話 試射②

 石動イスルギはまず100メートルの的に向けて発砲して、照準合わせサイトインする。


 映画や漫画の世界だと、ライフルの弾丸はどこまでも狙ったところへ真っ直ぐ飛んでいるように描かれがちだが、実際には山なりの軌道を描いている。


 分かりやすい例だと、アーチェリーの試合などを見ると初速が遅いので矢が山なりの軌道を経て的に当たる様がはっきり見て取れる。

 ライフルはこれを小さな弾丸でもっと高速に飛ばしているわけだ。


 ライフルの銃口の先にある照星と狙う際に目の前にくる照門の関係は、僅かに照門のほうが高いため照星をそれに合わせると銃口も少し上を向くようにできている。

 そのため、銃口から発射された弾丸は僅かに山なりの軌道を経て、狙ったところに着弾するように設定されているのだ。


 それを裏付けるデータとして、 スコープを300メートルで標的の真ん中に当たるゼロ・インようにした場合の30-06スプリングフィールド弾の弾道性能は、100メートルだと14センチ弱真ん中より上に着弾し、500メートルだと110センチ強真ん中より下に着弾するというデータがある。


 いかに実際の弾道が山なりのものなのかが分かるだろう。

 

 早速、石動はテーブルとイスをマジックバッグから取り出し、その上にライフルを砂袋の上に置いて固定した。

 弾丸は種類ごとに分けて並べ、ノートに結果を書き込めるように筆記用具も広げる。


 ライフルのレバーを下げてフォーリングブロックを降ろすと、直接銃身を覗いて100メートルの的の中心に向けてセットする。

 照星と照門をそれに合わせて調整し、まずは50‐90弾から試射を始めた。


 バァンッッ 


 1発づつ確認しながら続けて3発撃つと、3発の着弾が的の中心から右上30センチの所に固まっていたので、照星を少し下げ照門を左に着弾するように調整する。

 その後、10発ほど撃ちながら調整を続けると、ようやく的の中心Xに集まるようになってきた。

 

 続けて5発撃ったが安定して100メートルの的の中心に着弾がまとまったので、今度はそのまま300メートルの的を狙う。


 同じ弾で3発撃つと、中心より70センチも下に着弾していた。

 そこで、銃身に取り付けた可倒式のラダーサイトを起こす。


 オリジナルのシャープスライフルには、銃床の握り部分に折り畳み式のヴァーニア・タンサイトと呼ばれる精密射撃用のピープサイトが付いている。

 石動はシャープスライフルに銃剣も着けて使用するつもりなので、オリジナルと一緒のタンサイトだと握りにくくて邪魔だ。

 本当は陽炎が出やすいので銃身上は避けたかったが止むを得ず、起こすとピープサイトになるラダーサイトを設置してみたのだ。


 ピープサイトはノブを回すことで上下と左右に動かして照準出来るようにしてあり、1目盛ノブを回すと300メートル先では約5センチ上がることが分かった。そこで35目盛上にピープサイトを上げて射撃するとほぼ真ん中よりに着弾がまとまった。


 精密なスコープでのサイトインとは全く勝手が違うので大雑把なものだが、ほぼ狙ったところに着弾してくれるなら上出来だ。

 石動はノートにデータを記録しながらピープサイトの目盛に目安となる数字を刻み、射撃を続ける。


 40発撃ったら魔石を交換し、用心鉄レバーを操作してフォーリングブロックを下げて空気を通して銃身を冷却するとともに、銃身内に油を染み込ませた布を取り付けた棒を何度か通す。数回通しただけで、布が真っ黒になった。

 銃身内を覗いて鉛などの汚れがライフリングにこびりついていない事を確認し、標的を貼りなおした石動は他にも用意した弾を試していく。

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