第28話 試行錯誤

「う~ん、指向性が必要なのか・・・・」


 金属製雷管は金属のキャップの中に爆轟素材を封じ込め、一方向だけにその火力を解放しているので、金属薬莢の底に空いた穴に向けた火力は確実に薬莢内部の推進薬を発火させる。

 今、石動イスルギの作った巻き玉火薬は火皿の上で全方位に向けて爆発しているので、危険な上に火力の方向が定まっていないため無駄が多く、結果として薬室内の推進薬である黒色火薬に上手く着火できていないのだ。


「かといって、このかんしゃく玉をキャップ状にする技術は今の自分には無いしなあ・・・・。もっと鍛冶と錬金術スキルのレベルを上げないと難しいか」


 すっかり冷めてしまったハーブティーをすすりながら零していた石動に、困った子供を見るような顔をしてそれを眺めていた師匠が、ハーブティーを呑みながら笑い声をあげる。


「ワシなら銅の中にそれを詰めるくらいは簡単だがな。地道に錬金していけばいずれスキルのレベルは上がる。私ももう300年ほど錬金術を極めんとしているが、未だに修行中の身だよ。ホホホッ」


 師匠の言葉にイラッとする石動だが、出来るようになるという見込みが立つのは有難い。


「師匠、ちなみにどれくらい修行すれば、雷管サイズの銅のキャップにかんしゃく玉を詰めることが出来るような錬金が可能になりますか?」

「そうよな、大きいものから段々と小さくしていって、一万個も造ればそのサイズまで出来るようになるんじゃないかな。それか経験を積んでレベルを上げていくことだ」

「げぇ! そんなに材料もないよ。仕方ない、地道にやっていくしかないか・・・・」


 見た目は苦み走ったいい男でジェームズ・ボンドを演じた俳優の誰かに似ているほどなのに、笑い方や性格がいろいろ残念なのが師匠だ。さらに言えばナイスミドルな顔にダ〇ブルドア風の顎髭は付け髭みたいで似合わないと石動は思っている。


 本人曰く、髭がある方が威厳があるだろ? とのことなのだが・・・・・・。


 もっとも外見は50代に見えても、エルフらしく実年齢は500歳近いらしい。ラタトスクによると錬金術スキルのレベルがもうすぐ50に達するらしく、この世界では有名人なのだという。


「ところでツトム。確認だが、お前が目指すのはその薬室にある火薬に火を着けたいんだよな」


 石動が製造するまで、この世界には黒色火薬すら存在しなかった。硫黄はあったが薬として錬金されるものであり、当然の様に硝石も無かった。

 そのため、黒色火薬のために硝石を求めて集落のトイレの周りの土を掘り起こす石動を、最初エルフ達は変態でも見るような奇異の眼で見ていたのだ。


 硝石を知ってからは師匠も石動に協力的になり、トイレだけではなく家畜の死体などを集めて埋め錬金術スキルを発揮して促成栽培することに成功するようになった。

 その結果、今では大きな木樽に10個ほどの黒色火薬を備蓄出来ている。


「ツトムのやり方を見ていたけど、なんか無駄が多いような気がしてね。どうしても火薬に点火するのに雷管だったか、それを爆発させないと駄目なのかな?」

「えっ、どういう意味でしょう?」

 

 師匠は椅子にもたれて右手を頬にあてたポーズをとり、悪戯っぽく目を輝かせて石動を見る。


「うん、最初から見てて不思議に思っていたのだが、普通に火を発生させるだけで良いのなら火の魔石を使う方が簡単なんじゃないかな?」

「ええっ、火の魔石、ですか・・・・・・?」

「そう、火の魔石を錬金してその火口に埋め込めば、魔石の大きさにもよるがハンマーで叩く度に数十回程度は火を薬室に向けて発生させられると思うがな」

「・・・・・・」


 全くそんな発想が無かった石動は唖然として師匠の顔を見つめていたが、我に返るとその火の魔石を錬金するやり方を教えてくれるように師匠に迫っていた。


「師匠!! もっと早く教えてくださいよお! 悩んでた自分がバカみたいじゃないですかぁ!」

「だってツトムが"これと同じものを造りたい!"って言ったんじゃないか。だから素材も揃えてやったし、どうしても同じ物じゃないと駄目なのかなと思うだろ?」

「そりゃそうですけど・・・。自分、魔石なんて知らないですよぉ!」

「モノを知らんおぬしが悪い。もっと精進しないとな。ホホホッ」

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