第27話 錬成
学んでみると錬金術は、「錬成!」と叫んで両手を合わせれば魔法陣が浮かび上がり、石の柱が生えてくる
色々な物質を「抽出」して「調合」し、他の物質を加えて「錬成」「組成」する。
そうやって生まれた新しい化合物を「加工」し、薬や合金などの素材、加工物へと変化させるものだった。
前世界と違うのは、そういった作業の中の「抽出」とか「錬成」といった工程を錬金術師たちが生み出してきた「魔法陣」の上で行うことで、錬金術師のスキルレベルに応じて魔法陣上での作業の難度が上下することだった。
魔法陣自体は既にある既存の物を使用すれば良いが、より高度な精度を求める錬金術師はその魔方陣に改良を加えることで錬金術師としてのレベルの高さを示すらしい。
例えばある魔法陣を使って作業すると、鉄鉱石から鉄のみを簡単に「抽出」でき、まるで魔法の様に鉄のインゴットに「錬成」出来る。
ただ希少な物質などは既成の魔法陣の精度では上手く抽出できなかったするので、如何に高度な技術が組み込まれた魔法陣を作り出せるかどうかが錬金術師の腕の見せ所となるわけだ。
実際、師匠の作ったオリジナルの魔法陣を使おうとしても、石動のレベルが低いせいで全く使用できなかった。
半年学んで、やっと師匠から好きに素材や初歩的な魔法陣を使って良いという許可を得た石動は、ようやく念願の雷管づくりへと取り掛かる。
師匠の研究室の一番奥には、防音・防火用の頑丈な二重ドアがある危険物を扱う時のためのコンテナのような設備があり、その日からそこが石動の定位置となった。
石動が作ろうとしているのは、前世界でいう「かんしゃく玉」を巻き玉火薬状にしたものを雷管代わりにしようとするものだ。
雷管を造るのは難しい。
なら、それに近い性質のものはないかと考えた時、思いついたのが昔に運動会で使用されていた平玉火薬を使ったスターターピストルとかんしゃく玉だ。
小学生のころ、科学の月刊誌にマッチを使ったかんしゃく玉作りの記事が載っていて、作ってみたくなった石動は家じゅうのマッチとアルミホイルでかんしゃく玉を造っては破裂させ、母親に怒られた事があったのだ。
それを思い出した石動は、非常用防水ケースに入れていたアウトドア用のマッチをマジックバックの中に入れていたリュックから取り出し、それを師匠の所へ持ち込んで「マッチを使ったかんしゃく玉」を造って見せ、これと同じものを造りたいと相談したのだ。
マッチは少ししかないので、この世界にある材料で再現できないと意味がない。
マッチの材料である塩素酸カリウムは、師匠が山にある鍾乳洞から採ってきた石灰乳から抽出し、塩素を反応させ調合した塩素酸カルシウムを素材として持っていた。
それを師匠の魔法陣で錬成してもらうことで製造出来る。
硫黄も錬金術の素材として師匠が持っていたし、リンも尿から精製したものを錬金術素材として師匠が抽出するノウハウを持っていたので教えてもらうことで製造出来た。
これらを配合するのだが、塩素酸カリウムと硫黄やリンは接触するだけで爆発することがあり、本来は非常に危険だ。こういう時に魔法陣のチートな性能に感謝しながら作業を進め、衝撃を与えた時に擦れて発火するように少量の砂を混ぜて加工する。
それから衝撃から守るため本来のかんしゃく玉なら石膏で表面を固めているが、巻き玉火薬に加工するためにいろいろな素材を試している所だった。
可燃紙でカバーしたら発火した後、全ての火薬に類焼して爆発し、機関部が吹っ飛んだこともあった。
師匠の提案で沼に住むカエルの魔物の粘液を染み込ませて乾燥させた布が一番良いことを発見し、何とか異世界版ペレット状雷管モドキは完成した。
テストしてみたら、引き金を引いてハンマーが落ちると派手な音と共に爆発してくれるものの、薬室にある黒色火薬に着火できる時と出来ない時があって、不発率が7割を超えることが石動を悩ませていた。
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