第26話 錬金術師

 何とか銃身は出来た。


 次は機関部だ。


 石動イスルギは現段階での自分のレベルを考慮したうえで、金属薬莢と雷管を使用したカートリッジ式の銃器の製造を一旦、諦めることにした。

 かわりに単発だが長距離射撃が可能な、あるライフルの製造に取り掛かることに決める。


 それはアメリカ南北戦争にも使用され、西部開拓期に「バッファローガン」として有名だった「シャープスライフル」だ。


 シャープスライフルは、1848年にアメリカ合衆国のクリスティアン・シャープスが設計した大口径単発形式の小銃で、1881年に生産終了となるまで長射程と正確性により高い評価を得た銘銃だ。

 シャープス銃はフォーリングブロックという特徴的な銃尾閉鎖機構を持っている。

 レバーアクション式のウインチェスター銃のようにレバーを下げると、ブリーチを閉鎖している部品が垂直に下降する。

 薬室に弾薬を装填できるようフォーリングブロックの上部は凹状になっていて、弾薬を装填後はレバーを戻してブリーチを閉鎖したら、銃尾右側にある大きなハンマーをコックして撃発するという単発銃であった。

 現代の銃でこの方式を使用している物は無いが、大砲などの閉鎖機構はフォーリングロックであり、信頼性は抜群だ。


 また「バッファローガン」と呼ばれたのは、当時広くアメリカ大陸に生息していたアメリカンバッファローを狩るのに使用されたためだ。

 巨大なバッファローを一発で倒す大口径・高威力の弾丸を使用して長距離射撃用にカスタムされ、1800年代に黒色火薬使用なのに1000ヤード(910メートル)での標的射撃に活躍した銃でもある。


 もちろんそのような長距離射撃は高圧に耐える金属薬莢を使用した場合のモノではあるが、石動がシャープスライフルに注目したのは初期の発火方法に面白いものがあるからだった。


 金属薬莢以前のパーカッション銃は、銃弾と火薬をを薬室に詰めハンマーが打つところに雷管をセットし、薬室にある装薬を発火させるのだが、シャープスライフルはその雷管を巻紙状にしてセットするようにしていた。


 ペレット状雷管というもので、昔駄菓子屋で売っていた巻き玉火薬のおもちゃの鉄砲と基本的には同じである。ハンマーを起こすと巻紙が動いて次の雷管がハンマーの下にセットされ発火される仕組みだ。現実にはこの巻紙式は湿気に弱く不評で短い期間しか採用されなかったようだが。


「う~ん、これでうまくいくと思ったんだけどなぁ・・・・」


 石動は頬杖を突き首を傾げ、机に固定したシャープスライフルの機関部のみのユニットを眺めながら眉間にしわを寄せ悩む。


 パーツを組み上げたユニットに巻紙式雷管モドキをセットして、ハンマーとトリガーの動作の調整と同時に発火実験を繰り返していたが、上手くいかなかったからだ。


「火力が弱いんじゃないのか? ツトムの言う"かんしゃく玉"だっけ? リンの量が少ないのではないか」


 石動の前にハーブで入れたお茶のコップを置いて、顎髭が印象的なエルフが自分のティーカップを優雅に口に運ぶ。

 外見は50代くらいのナイスミドルに見えるエルフで、白い顎髭を某魔法学園の〇ンブルドアの様に生やしているのは石動の錬金術の師匠であるノークトゥアだ。

 本名は非常に長がったらしい名前らしいので、石動は単に「師匠」と呼んでいる。


 石動が「錬金術師」と聞いてイメージしていたのは、魔女のように薄暗い地下室で大鍋の中にヤモリのしっぽとか入れた紫色の煙が発生する禍々して液体を薄笑いしながら長い木のへらでかき混ぜている危ない人か、片腕が金属製の義手で背が低くフルプレートメイルを着た大男を連れた金髪の人、というものでしかなかった。

 ラタトスクに教えられて訪れた先は普通の倉庫を改造した一軒家であり、中から出てきたのも白衣を着て顎髭を生やしたエルフだった。エルフなので、スタイルの良いナイスミドルなイケメンであり、白衣が非常に似合っている。


 中に通されて研究室に入ると、まさにどこかの大学か企業の科学実験室の様だった。

 壁には各種の薬品や化学物質の粉の入った瓶がラベルごとに分類されて数多く並び、鍵がかかるようになっている棚に保管されている。

 いくつもあるテーブルには様々な形のフラスコやビーカーなどのガラス製の器具が設えられ、アルコールランプで蒸留中だったり、ピタゴラスイッチの様にどうつながるのか一目では分からない装置などが並ぶ。


 「錬金術」というものに対して、アニメやラノベでの知識しかない石動は、その科学的な雰囲気を意外に思い新鮮な思いを感じていた。

 そしてさっそく興味がわいた石動は、師匠に弟子入りして一から教えてもらうこととなったのだった。

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