第29話 火の魔石
早速、ペレット状雷管をあきらめた
火の魔石は親指の先くらいの大きさでなんと金貨1枚もする。魔石専門店で購入するともっと高いという。
師匠によると魔石を加工するには、ただ削って填め込めば良いというものではなく、叩いて炎が出るように錬成しないと駄目とのことだった。
つまり魔石とは魔法を発生させるための触媒であり、魔物は体内にある魔石に魔力を通すことで火を吐いたり、ファイヤーボールを飛ばしたりする訳だ。
それを魔力の無い人間が使用するためには錬金術で加工して魔石に方向性を与えることで、暖房や魔導コンロの燃料となったり、冒険者が使う着火用魔道具のような点火器具になったりするらしい。
今回の魔石のことで、石動は自分が如何に前世界での知識にこだわり過ぎ、この世界のことを理解しようとしていなかったかを痛感し反省した。
既にライフリング切削の時に思い知っていたはずなのに、銃すら無いようなこの世界は遅れていて、前世界の科学知識がの方が遥かに進んでいるのだからそれを再現しなければ始まらないと考え、自分の方が知識チートだと思いあがっていたことに気付いたのだ。
なぜこの世界のことをもっと謙虚に学んで、この世界の材料を理解し使用しようとしなかったのか?
しょせん「錬金術」だのなんだの言っても非科学的なものだと何処かでバカにしていなかったか?
でも結局は師匠や親方らの知識や力が無いと何も出来ていないのではないのか?
この世界は厳しい。
争いが絶えず、治安も良いとは言えない。生活水準は中世ヨーロッパ並みだし、魔物まで居る。
その上まだエルフ種だけしか会っていないが、この世界の人間の戦闘能力や体力は石動の考える人間のレベルを超えている。
これはやはり個人スキルのレベルによるものだろうが、今のままじゃ到底まともに戦って勝てるとは思えない。
だからこの世界のあらゆるものと対等になる為、自分がそれらと戦っても生き残っていけるように銃を造ろうと思ったのではなかったか。
そのためにはもっと貪欲にこの世界のことを学ばなければならない。
石動は自戒を込めて、そう固く心に誓った。
シャープスライフルの雷管キャップを嵌め込むところに魔石をセットするには、魔石自体を直径5ミリ程の円柱状に切り出す必要がある。
師匠によるとそれも魔法陣で作業可能だという。
いきなり魔石でやって失敗すると高くつくので、石動は他の石で切り出しと方向性付与の練習を師匠に教わりながら始めることとなった。
3日かけて千を超える石を切り出し、やっと師匠の合格を貰った石動は緊張しながら火の魔石に挑んだ。慎重に錬金することで何とか切り出しと方向性付与の錬成を成功させることが出来たので、シャープスライフルの雷管部に嵌め込んで点火実験を行うこととなる。
テスト用のシャープスライフルの機関部を実験室の台の上に固定し、用心鉄のレバーを下げて薬室を解放する。弾頭を付けず空砲とした紙巻薬莢を装填するとレバーを戻してフォーリングブロックを閉鎖した。
紙巻薬莢とは金属薬莢が一般化するまでの間に使用された簡易的な薬莢のことだ。
文字通り弾頭を紙で巻き、弾頭後ろの巻いた紙の空洞に火薬を詰めてから末尾を折り畳み油脂や蝋で固めたもので、発火すれば紙の薬莢は火薬ごと燃え尽きてしまうので排夾する必要がない。
今回の空砲では弾頭の代わりに蝋で造ったワックスを詰めた。
薬室右側についた巨大なハンマーを起こしたら、引き金につけた紐を持って安全な盾の後ろまで下がる。
盾の後ろで石動が紐を引くと、引き金がひもで引かれ、ハンマーが勢いよく倒れて雷管部に埋め込んだ魔石を叩いた。
バンッ!
発砲音と共に黒色火薬特有の白い煙が、勢いよく機関部の先からもうもうと噴き出した。
無事薬室内の空砲に点火出来たようだ。
狭い防音室の中に火薬の臭いと煙が充満する。石動はこの夏の日に花火をした時を思い出させる火薬の臭いは嫌いではない。
ライフルに近づきレバーを下げてフォーリングブロック薬室内に問題が無いことを確かめ、空砲をまたセットして実験を続ける。
結果として直径五ミリ長さ1センチの火の魔石を使用すると42回発砲することが出来、不発はゼロという満足する結果を得ることが出来た。
「魔石一つで大体40発だと思えばいいな。次の目標は金属薬莢カートリッジの開発だけど、それまではこのシャープスライフルをちゃんと使えるようにしなければ」
石動はまだまだ旧式ながらライフルらしきものが出来たことが嬉しかったが、自嘲を込めて思う。
「まだ自分の銃製造レベルは前世界の19世紀並みということだな。そうだ、神殿に帰ったらラタトスクに錬金術レベルが上がったか、見てもらおう」
神殿でラタトスクのスキルで錬金術レベルを見てもらうといつの間にか「レベル7」に上がっていた。
師匠の「まだまだ修行だな。ホホホッ。」という声が聞こえたような気がして、うれしさ半分な気持ちになった石動だった。
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