第24話 手合せ
しばらくアクィラはブツブツ言っていたが、ようやく落ち着いたので手合わせをお願いすることになった。
片手剣の木剣を持っても構えもせず、ぶらりと両手を垂らしたままのアクィラに、
銃剣には鉄製の鞘を履いたままではあるが、突かれたら痛いでは済まないぞ、と思いながら石動は剣先を軽く揺らしながら摺り足で間合いを詰める。
半身になって腰のあたりに木銃を構えているので、アクィラには間合いが図りづらいはずだ。
銃剣術の要領でシュッと左手は添えるだけで右手で木銃を突き出し、アクィラの左肩を狙うも直線的な動きのせいか、アクィラは最初「おっ?」という顔はしたが左肩を突く直前に片手剣で難なく捌かれた。
捌かれた勢いをつけて薙刀の動きの様に袈裟懸けに切り込むも紙一重で見切られ、逆袈裟で薙いでみたが、これも防がれる。
何とか一本でも取ってやろう、と石動は木銃を駆使してアクィラに挑むも30分も打ち合ううちに万策尽きて、体力も尽き地面に座り込むこととなった。
「フム、ツトムよ。木剣の時よりは良い動きだったぞ。これなら中級クラスの冒険者位なら倒せるかもしれんぞ」
「ハアハア、ありがとうございました。自分も元の世界じゃそこそこ強い方だと思ってたんですけどね。自信無くすわぁ。まだまだこちらの騎士たちには通用しないということですかね」
「うむ。他所の騎士たちは知らんがウチの神殿騎士たちには通用せんかな。いや、初見ならやられる奴もいるかもしれん」
石動は荒い息を整えながらニコニコと笑いながら息も乱れていないアクィラを見上げ、恨めしそうな顔をする。やはり銃剣本来使用法である、刺してもダメなら距離を置いて発砲する事が出来るようにしないとこの世界の兵士たちには勝てないようだ。
銃剣に変わった形の木銃に興味を持ったアクィラに連れられて、鉄製のプレートメイルを被せた人型の所へやってきた。
本来はこの人型に木剣などで打ち込み、独りで練習するためのものだが、アクィラは切れ味を見たいので鞘を払って突いてみるよう石動に言った。
「遠慮はいらん。これはプレートメイルとしては厚めの5ミリの鉄板で出来ている。試してみるがいい」
石動は木銃の銃剣から訓練時には相手をケガさせないようにはめたままにしていた鉄製の鞘を外し、艶消しの鈍い色の刀身をあらわにする。
そして左足を前にして木銃を半身に構えると、「フッッ!」と気合と共に間合いを詰めてプレートメイルの左肩を突いた。
「あれ?」
カンッと刀身が金属に当たる音はしたが、余りに手応えが軽かったため素早く引いた木銃を再度心臓部の左胸を突く。
鉄の人形のようなものを突いたにしては予想した感触と余りに違っていたので、石動は首を傾げながらプレートメイルに近づいて自分の刺した箇所を確認してみる。
近付いて見ると左肩も左胸にも鋭利に刃が貫通した跡があった。
「うーむ、普通は槍でもここまではいかんぞ。大した業物だな」
一緒に刺し跡を見ているアクィラが感心したように呟いた。
何かワクワクしているアクィラが石動の手を引いて、次は直径30センチ程の丸太を地面に埋めて立ててある場所に連れてきた。
「今度は腰の小剣でこの丸太を切ってみろ」
石動は仕方ないので小剣を抜き、右足を前にして剣道の八双の構えから右袈裟掛けに切り込んでみる。
するとほとんど素振りした程度の感触で、丸太が斜めに切れ落ちた。
丸太の太さから、まず斬れないだろうと予想していた石動は驚いて言葉を失い、納刀するのも忘れて立ち尽くす。
良い笑顔のアクィラからポンっと肩を叩かれて石動は我に返る。
「良い剣を手に入れたな。これからも精進してその剣に相応しい腕にならねばならんぞ」
「・・・・はい」
石動はアクィラにうわの空で生返事をしながら、頭の中では別のことを考えていた。
「(5ミリの鋼板を貫き30センチの丸太を輪切りにできる切れ味と硬度・・・・。この素材なら銃身にライフリングも楽に削れるのでは・・・・? 別に元の世界の鋼材にこだわらなくてもこの世界の素材を生かせばいけるか?!)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます